The wish that I shed

「花がすきなのか、お前」  性格に似合わず、と口にしなかったのは気まぐれ。  驚いたように振り返ったマロングレーが風にさらわれる様をなんともなしに見つめ、瞬きをひとつ、ティアの隣に腰を下ろした。 「ええ、そうね、」  すき、なのかもしれないわ。  碧眼が揺れたのも一瞬、こぼれた吐息が少年の耳に届く。 「花…ねぇ」  手中で無造作に束ねた花を引きちぎり、顔を寄せ匂ってみるものの、顔を顰めすぐに指を開いた。 「やめなさい、花だって生きているのよ」 「生きてる、って。軍人のお前がよく言うよな」 「軍人だからといって命を軽く見ているわけではないもの」 「うそくさ」  見つめているのも馬鹿らしくなって、いっそのことすべて引き抜こうかとも考えたが、それすらも面倒くさい。  深いため息をひとつ、吐息で花弁が揺れる。 「あなたは、」  すきではないのね、 「花」 「─…すぐ、枯れるだろ」  問われたそれに睥睨するも、蒼の双眸は足下を見つめたまま。  なにを期待していたのか、自身への問いかけはとりあえず胸中に留め、もう一度花を摘む。 「人と一緒で、」  すぐ、いなくなる。  散らした花弁はしばらく宙を漂い、やがて同系色のそれと混ざって視界から消える。  そんな行方を見届け、ルークはゆるりとまぶたを閉じた。 「…そう、ね」  少女が呟いたのは肯定。  仄暗い空を仰いだのと同時、マロングレーから覗いた碧眼が月夜に反射し鈍く光る。  でも、と。聞こえた音に薄くまぶたを開けば、朱を映した蒼と視線が重なった。 「ガイやナタリアや──…私たちは、あなたのそばにいるわ」 「…わかんねえよ」  まだ、わかんねえよ。  ルークは淡く微笑んだそれに返す言葉を知らなくて、ただ澄んだ蒼から逃れたい一心でまぶたを閉じ深く息を吸いこんだ。 (だけどそんなまやかしのような言葉を少し、信じてみたくなった)
 長髪ルークとティア。  2010.6.19