あなたの眸に映るいろ。

「あなた、目が変わるのね」  わたしの言葉に、薄く澄み渡った眸が丸みを帯びる、意味を探りあぐねているみたいに。  なにもかもを見透かしてしまうような、湖面みたいなこの眸がすき。彼女を追いかけていた時もつい、ファインダー越しに見惚れてしまっていたことがしばしばあった。  まさかその色と、こんなに近付くことになるなんて思ってもみなかったけど。 「真実を言うときには」 「そうかしら」  後頭部を包んでいた手が一本一本辿るように、髪を梳いていく。  まどろみにも似た心地良さに目を細めれば、猫みたいね、なんて、からかうような声が転がる。さっきまでわたしに見下ろされ鳴いていたのは彼女の方なのに、そんな数分前が夢だったんじゃないかと思うくらい。  彼女とベッドを共にしたのはこれで二回目。  一度目はきっと、同情と、憐れみ。初の任務だというのに理想通りにいかず泣き言を吐いたわたしを単に放っておけなかっただけだったんだろう。わたしを暴く手は乱暴で、だけどひどく、あたたかくもあって。  だからもう一度、そのぬくもりに触れたくなった。嘘と虚飾にまみれた世界で、彼女の体温だけが、真実に見えたから。まさか彼女が、なにを尋ねるでもなくわたしを招き入れるとは思わなかったけど。  記憶を頼りに、彼女が滞在するモーテルの一室をノックして。どう言い出そうか言葉を選んでいるわたしにただ、入りなさいと。そこからはもつれるように、彼女の肌を、体温を一心に求めて。 「ねえ、」  あごを引いたロレーンが、窺うようにわたしを見つめる。  どこまでも透明な、色。これだけはどうか、嘘偽りがありませんようにと。 「──なんで、わたしを受け入れてくれたの」  一度、またたいた眸がふと、まぶたを下ろす。  髪を撫でつけていた指が、頭のかたちを確かめるみたいに触れて、ふいに抱き寄せられて、 「─…ただの、きまぐれよ」  噛み付いてきたくちびるは、あたたかかった。 (そうしてわたしの名前を落とした彼女は一体、どんな眸をしていたのか、)
 ロレーンは絶対受け。  2017.10.22