たとえばありふれたしあわせに、
こんなことに無駄な思考を割くなんて私らしくもないけれど。
「一体なんなのよ、これ…」
思わずひとりごちてしまうくらいには、頭を悩ませていた。
***
それを見つけたのは偶然だった。
とある薬品がどうしても見つからず、そういえば妹に貸したままだったと思い出し部屋を訪ねてみれば主の姿は見えなくて。どうせまた治験体でも探しに出かけているのだろうと、特に行き先に想いを巡らすこともなく戸棚を漁り。
そうしてホルマリンに溢れた瓶たちのその奥、まるで隠すように置かれたそれに目が留まってしまったのだ。
秘密主義なあの子がなにを隠していようが今更興味なんて湧かないけれど、その袋に「Iosefka」と記されたメモ書きが添えられていては話は別というもの。
ヨセフカ、なんてざらにある名前でもないし、かといってあの子が自身の名前の綴りを間違えるわけもないし。ということはこれは、この袋の中身は、私に宛てた物、もしくは私に使用する物である可能性が高いわけで。
一体全体なんだろうかと光に透かしてみても、真っ黒な袋のせいか中身が見えるはずもなく。だからといってその紐を解く勇気はなかった。別段プライベートを明かすことに抵抗があるわけではない、その中身の得体が知れないからだ。なにせあの妹がわざわざ袋に入れてまで用意しているものだ、きっと、いや絶対、常識外れのそれに違いない。
机に置いてしばらく凝視していたけれど見当がつくはずもなく。それよりも私の目に触れたことにあの子が勘付く方が面倒だと、袋を手に取って、
「なにしてるの、ヨセフカ」
「ひっ、」
耳元に落ちた声に慌てて振り返れば、きょとんと目を丸めた件の人がそこにいた。
咄嗟のことに後ろ手にさえ隠せなかった袋と、それから慄く私とを交互に見つめ、あら、なんて。てっきりお得意の怪しい笑みを浮かべるとばかり思っていたのに、その表情はどこか残念そうにも見えた。
「見つけちゃったのね、それ」
「…ね、ねえ、これって」
「見ればわかるでしょ、あなたへのプレゼントよ、お姉様」
袋を指してそんなことを言った妹は肩を竦めてみせる。
ぷれぜんと、プレゼント、とは。おおよそこの子の口から出たとは思えない可愛らしい響きにしばし首を傾げ、真っ黒な袋に視線を投げ、それから目の前の妹を見つめ。
プレゼント、だなんて。誕生日はまだ先だし──そもそも私とこの子は双子だから誕生日は同じなわけで、だからこそ妹が日付を間違えているはずがなくて。
「ヨセフカに似合うと思って。だけど渡す口実が見つからなくて」
口ごもるその姿が、かわいい、なんて。感じてしまったのは自然。なんでもない日に、ただ私に似合うからというそんな理由だけで贈り物を用意してくれていたことが嬉しくて。
こんな感情がまだ私に残っていたことさえ驚きだけれどそれでも、いまはただ、ひとりでに浮かんだこの言葉を。
「──ありがとう、ニセフカ」
「…改めて言われると恥ずかしいからやめて」
どこかぬくもりが残っているような袋を抱きしめ、贈ったのは満面の笑顔。
「まあいいわ、早く開けてちょうだい。きっと気に入るから」
「一体なにを………」
「どう?」
「これは………首輪?」
「首輪以外のなにかに見える?」
「………はぁ」
「ちょっと。なんで袋に戻すのよ。なんで出て行くのよ。ちょっと」
(まあ、嬉しかったことに変わりはないのだけれど)
某様のお誕生日に書いたヨセニセ。
2017.7.19