けもののよる。
ひと月にいちどだけ。獣を狩るべきその人が、獣自身へと豹変する。
「…っ、ん、ぁ…、」
ぴちゃり、ぴちゃり。雨音にも似たそれは下腹部よりもさらに下、恥ずかしげもなく開いた両足の間から。こぼれ出るそれを一滴でも逃すまいと伸ばされた舌が、丹念に、入念に、舐め去っていく。
押し拡げるみたいに奥へと進み、かと思えば抜き取る寸前でぐるりと内襞を周回して、窄まりに垂れていこうとするものさえ吸い取って。まるで別の生き物みたいに、舌を自在に操っていた。
前回から数えて二十九回目の夜。今日は、月のものが降りてくる日だった。
陽の高いうちからどっしりと重い下腹部は、毎月の兆候。人よりも身体に現れやすいわたしがそれでも表に出さないよう日中は務めを果たしていたというのに、いつものように訪ねてくださった彼女は一目で体調不良を見抜いて。
今夜はやめようかと、心優しい狩人さまは心配を向けてくれたけれど、その眸が艶やかな光を帯びたことを見逃さなかった。だって彼女はこの夜を待ち望んでいるから。聖女であるわたしの、穢れた血をその身に落とすことを。
「大丈夫かい、アデライン」
ふと顔を上げた彼女が眉尻を下げる。いつもの”マリアさま”が帰ってくる。聖母にも似たその心に、ゆるり、首を横に振る。
瞬間。眸が、色を宿した。ともすれば狂気さえ映るそれが向けられた途端、触れられてもいない背筋が痺れていく。
何者にも勝る狩人が、ただの獣へと還るその一瞬が、わたしはたまらなく、すき。普段かしずく側であるわたしの足下に、尊敬すべき狩人だったひとが跪いていることが。わたしを一心に求めてくれていることが。あなたの中に、わたしが入っていけることが、たまらなく。
理性を閉じ込めた彼女は、けれど舌以外のものを侵入させようとはしない。それも当然のこと、だって彼女が得たいものは、肉体的に穢れの知らないわたしのただ唯一、忌むべき血液だけだから。
わかっている、わかってはいるけれどそれでも、こんな狂った夜がどうしようもなく、いとおしくて。
「─…まりあ、さま、」
かつての名前をこぼす。
視線を向けたけものは、赤黒く染まった口元をにいと持ち上げた。
(果たしてけものかばけものか、)
狩人様は聖女の穢れた血がおすき。
2017.8.4