あなたを想うこの指先でさえあなたに変わってしまうというのに、
まずは、くちびる。
恐る恐る近付けたせいか、突如触れてきたそれに自分のものながらびくりと震える。距離を置いてしまったそれをもう一度、次はゆるりと。左から右へ、あの子がいつもなぞる方向そのままに辿っていく。
まぶたを閉じれば、心を寄せるその人の表情が目の前にありありと浮かんでくる。私のくちびるを撫でる彼女はつと眸を細め、目尻を下げるのだ、いとおしそうに。その瞬間だけは彼女を一人占めできているようで、どうしようもなく胸が弾んでしまう。
世界を閉ざしたまま腕を下へ下へと向けていく、こうしていれば彼女を感じられるから。あの子と瓜二つな自身で触れればあるいは彼女にさえ伝わる気がして、この身を焦がす烈しい熱が届く気がして。
鎖骨を掠め、胸に行き着く。あの子はどう触れていただろうかと、思い出すのは容易かった。
まずは下方からすくい上げるように。わずかに重力に逆らい、外側からやわりと包み込む。白衣を羽織ったままだというのに、頂点の場所は簡単に探り当てることができた。
さわりと軽く潰すだけで背筋に痺れが走っていく。自分で触れているだけなのに、まるであの子の手のように。
けれど片方だけでは物足りなくて、左側も同様に持ち上げ、包みこんで。
膝が悦びに震えていく、もし座っていなければきっと地面にへたり込んでしまっていただろうほどに。それもこれも全部、あの子のものだと思い込んでいるから。胸を弄ぶやわらかな手を、耳元に吹きかけられるあたたかな吐息を、私をとかし込む儚げな眸を、私だけの世界に描いているから。
ふ、と。右手を下ろしていく、疼きの中心へと。早く早くとせがむ心に急かされ、その熱源を、
「──はい、そこまで」
鼓膜に響いた音に、瞬間、快感が走り抜けていく。まぶたを開けば、思い描いていた表情とそっくりそのままの表情を浮かべた妹が眸を細めていた、いとおしそうに。
椅子の背越しに覗き込んできている格好の彼女は私の右手首を掴み、逆さまの微笑みを見せる、それ以上はだめよと釘を刺して。
「そこから先に触れていいのは、わたしだけなんだから」
欲を含んだその言葉は、落ちてきた腕にかき消された。
(どれだけあなたを想っていたって、あなた自身には敵わない)
同じはずの指先が、足りない。
2016.12.11