いつだってあなたとともに在りたいから、

 果たしてあの方は喜んでくれるだろうか、なんて自問に、きっと大丈夫よと自答が返ってくる。心優しい狩人様のことだ、恐らくわたしがどんなものを差し出したって頬を綻ばせ、ありがとう、と。感謝とともに満面の笑みをくださるに違いない。  ああでも、もし万が一、気に入るものでなかったら。眉を下げ、困った表情だけを浮かばせてしまう結果になってしまったら。悪い想像は次から次へと飛び出して、心臓がばくばく音を立て始める。  落ち着きなさいアデライン、この日のために下調べしておいたはずでしょう、あんまり動揺しているとマリア様に、 「どうしたんだい、アデライン」 「ひぁ、っ、マリ、ア、さま、」  唐突にかけられた声に反応した身体が跳ねる。  振り返ってみればいましがた思い描いたばかりのマリア様その人が、腕を組み不思議そうな表情でわたしの顔を覗き込んできていた。あまりにも突然の来訪に、もう余裕を取り戻すことなんてできなくて。そもそも余裕なんて最初からなかったわけで。  うるさく鳴り続ける胸元を握りしめる。いま。渡さなければ、せっかく作ったものが無駄になってしまうから。  決心を固め、あの、と。口にすれば、件のその人はかわいらしく首を傾げる。 「これを、マリア様に」 「これは、…ペンダント、かな」  視線が手のひらに集中する。彼女の問いに、ゆっくりと頷きを返した。  銀色の十字架が輝くそれが完成したのは、つい昨日のことだった。  この閉鎖された空間で材料を集める時ももちろん苦労したけれど一番は、贈る相手がどんなものを好んでいるのか聞き出した時。欲しいものはないかとか、アクセサリーの類は身に着けないのかとか、何色が好みかだとか。単刀直入に尋ねるわけにもいかないから、なんでもない風を装って。けれどあまりにも無欲なこの人は、君がいてくれるだけでいいんだよとそればかり。それはそれで嬉しいのだけれど、わたしがいま聞きたいのはそういうことではなくて。  なんとも手ごわい相手からようやく、以前ペンダントを提げていたという情報を引き出すことができたのだ。  そうして苦心した結果であるそれを受け取った彼女は、照明にかざし、眸に映し、ふにゃりと。 「ありがとう、アデライン。嬉しいよ、とても」  小さな女の子みたいなこの笑顔を見るための贈り物だった。  まっすぐ向けられた感謝の言葉を受け、跳ねているばかりだった胸にぬくもりが広がっていく。毎夜血に濡れてくる狩人様にどうかひとときばかりのあたたかさを、と。願ったわたし自身が熱をもらっても仕方のないことだけれど、それでもどうしようもなく、嬉しかった。  つけてくれないか、と。背中を向けた彼女からペンダントを受け取り、手を回す。一つに束ねられた髪が持ち上がったところへ、しっかりと鎖を繋いだ。どうか祈りをこめたそれが少しの加護になりますように。 「これを見ればいつだって、君を思い出すことができるよ」  どうかわたしを、忘れてしまわないようにと。  彼女が髪を下ろしてしまうその前に、願いをこめた口づけを。 (いつなんときも、あなたのお傍に)
 マリアさまのためならなんだってがんばれちゃうアデラインちゃん。  2016.12.29