そうして今夜も愛の証が花開く。

「ちょっとまっ、」 「やだ、待たない」 「…っ、もう!」  何度目かの刺激に首筋から足の先までしびれが駆け抜けていく。視界がまたたいて。こんなことで意識を持っていかれそうになるだなんて。  視線を下げれば、ちょうどくちびるを離したテレーズの眸とかち合う。まるで悪戯に成功した子供みたいに微笑んだ彼女にようやく息を一つ、もう少し落としていけば、点々と赤く色づいた自身の肌にまた息をつきたくなる。  身体を重ねるたびに痕を残すことをまるで義務としているみたいだった。初めは胸元から始まったそれが、夜を積むごとにくちびるの位置を上げ始めて、いまや鎖骨にまで上ってきている。もう夏も近いというのに一体いつまでスカーフを巻いていなければならないのか、訴えたところで、ごめんなさいとかわいらしく肩を竦めるばかりでやめる気はないことぐらい分かっている。  諦めに身を任せている間にももう一つ、今度は谷間の頂点を強く食まれて、意識が引き上げられていく、明日の朝も早いというのに。 「…消えなくなったらどうしてくれるのよ」 「消えませんよ」  右の手首を取られ、まっすぐ伸ばされたと思えば、二の腕に口づけ。 「消える前につけちゃいますから」  こんなにも意地悪な少女を天使と称したのはどこの誰だっただろうか、認識を改めなさいとでも言ってやらなくては。そう思うよりも早く、戯れにくちびるが重ねられる。ようやく求めていた場所に触れてもらえた、たったそれだけのことでなにもかもどうでもよくなってしまうのだから、我ながら単純な思考回路だと呆れかえった。  息が混ざるほどの距離にあるくちびるが、けれどふと、わなないた気がした、まるでなにかを恐れているみたいに。 「…誰かに見せたら、いやですよ」  自身がつけた痕を一つ、一つと辿っていく、わたし以外には見せないでくださいと、言外に含ませて。  浮かんだ微笑みを乗せてみせる。やっぱり彼女は天使でしかないじゃないのと、文句は数分前の自分へ。背伸びをさせて不安を押し隠させているのは紛れもなくわたしであったのに。 「ひとりにしか見せないわよ」 「…ひとりって、」 「あなた以外にいると思っているのかしら、わたしの天使さん?」  あごをすくい上げて眸を絡ませればようやくいっぱいに笑った天使の首筋にくちびるを寄せて、甘く食んだ。どうかわたしの愛も残りますようにと願いをこめて。 (あなたからの溢れんばかりの愛はわたしだけが知っていたらいいの)
 Tはすぐ痕をつけたがる。  2016.3.15