そうして夜は明けていく。
もぞり、と。
物音にまぶたを持ち上げるより先に腕を動かしていた。きっとまだそこにいるであろう身体を捉え、自身の方へと引き寄せる。ひゃ、だなんて。洩れたかわいらしい声に頬がゆるまないはずがない。
「あっ、あの、起こしてごめんなさい…」
「こんな時間にどこで夜遊びするつもりかしら、ダーリン?」
「そんなこと…っ、」
冗談にさえ真面目に答えてくれようとするテレーズの表情が見たくて、また夢に引きこもろうとするまぶたを引き上げてみる。当然のことながら闇に慣れていない眸は、彼女の輪郭しか映してはくれなかった。
カーテンを引き忘れていた窓からは、白い陽の光が申し訳程度に差し込んできている。
今日はわたしもテレーズも休日だ、少しくらい朝寝坊したって構わないだろう。
腕の中でじたばたともがいている彼女をぐるり、引っ張って組み敷く。弱い光にさらされた彼女の深緑の眸がぱちりとまたたいた。
昨夜、こうして見下ろされていたのはわたしの方。どこで覚えてきたのか、深い口づけまで添えて、今夜は寝かせませんよ、なんて。先に眠ってしまったのは彼女なのに。仕事で疲れていたのはわかるけれど、胸元ですやすやと子供みたいな寝顔を見せつけられたわたしの身にもなってほしい。
ようやく光を取り戻してきた眸が映したのはうろたえる少女の姿。
心なしか彩られたくちびるを奪い去る、強引に。歯列を舌でなぞり、無理に開かせる。従順な口内に入り込み舌を絡ませれば、ぴちゃりと、響く音に目の前の身体が震えた。
「キャ、ロル…っ、あの、わたし、」
「離れなくたって息吸えるようになったでしょう?」
「そうじゃなくて、おてあ、」
言い募ろうとする口を自身のそれで塞ぐ。口づけの合間の呼吸の仕方はずっと前に教えていたはず。だというのになおも逃れようとするものだから、後頭部に片手を回し舌を差し入れた。
右手でパジャマのボタンを外していく。寝るときは下着をつけていないことくらいとうに知っていた。
ふるり、と。素直に反応してくれる身体に微笑みがこぼれた。彼女はいつだってかわいくて、いとおしくて、
「──トイレに! 行きたいんですっ」
ぱちり。またたく暇も与えてもらえず、拘束から逃れた彼女は顔を真っ赤に染めて部屋から抜け出していってしまった。
あんまりな走り様にしばらく去ってしまった背中ばかりを追いかけていたけれど、やがて苦笑を一つ。
きっと頬をふくらませて戻ってくるであろう小さな恋人を思い浮かべ、口元をゆるませた。
(ねえダーリ、)
(おやすみなさい)
(あの、テレーズ、本当に悪かったと思って、)
(おやすみなさい)
Cは勘違いしやすいといい。
2016.9.7