果たして天使は艶やかに、
まるで覚えたての知識をひけらかしたい子供のようだ。あるいはおなかを空かせた子犬か。
後者の方がうまく例えられているわねと自画自賛してみたけれど、そんなことで襲いくる眠気から逃げおおせられるわけもなくて。
「ねえ、起きて。起きてください」
甘え縋り付いてくる声に応えるのもそろそろ限界だ。今度こそ本当に夢に身を任せようとまぶたを閉ざしたのに、意識を手離すよりも前に割って入った痺れが無理に引き上げようとしてくる。
なんとか眸を開けば、反応を目聡く感じ取った子犬が嬉しそうに頬を綻ばせていた。無邪気なその表情に一瞬状況を忘れて見惚れ、けれどすぐに頭を振る。いままさに彼女がしていることは、純粋さとはほど遠かったから。
随分と年齢が離れた彼女は、昔のわたしがそうであったようにそれなりの体力と回復力を持っている。けれど当のわたしはと言えば、若さに追い付けなくなっていた。
求められることにはもちろん喜びを覚える、それこそ少女のときめきみたいに忙しなく心が跳ねてしまう。でもそれは喜ぶ元気があればの話であって、回数を重ねるほど感情よりも睡魔の占める割合が多くなるのは仕方のないこと。
だというのにこの子犬は、何度だって触れてくる。やさしく、それでいて段々と大胆に。ともすれば弄ばれているようなそれに律儀に反応してしまうわたしも大概だけれど。
内腿に近付いてきたくちびるを押し留め、上向かせる。不服そうにふくれた彼女をかわいいだなんて思ってしまうのもやっぱり、仕方のないこと。
「『待て』もできないのかしら、あなた」
「…わたしは犬じゃないもの」
だって天使なんでしょう、と。語尾を上げ悪戯に微笑む天使のなんて小憎らしいこと。ついこの間まで恥ずかしそうに頬を染めるだけだったというのに、一体いつから言い返せるまでに口が成長したのだろう。考えてみたところで、彼女が願い通り待ってくれるわけがないけれど。
すくい取られた片手に口づけ、そのまま指を絡めて覆い被さってくる。触れた素肌が心地良い。
「それに、不機嫌になられても困りますから」
「誰がそんな、」
「やめたら怒るくせに」
「っ、」
滑り込んできた指が掠めて思わず、息が止まる。目の前のくちびるがゆるんでいくのを咎めることさえ出来ずただ、空いた片手で首に縋り付く。
一体いつからわたしは組み敷かれる側になってしまっていたのだろう。いつからわたしは、
「眠っちゃだめですよ、──わたしの女神さま」
天使の眸に呑まれていたのだろう。答えに行き着く前に、くちびるを奪われた。
(そうして夜明けはすぐそこに)
年下に攻められるCかわいい。
2016.3.4