だってわたしは愛しか教えていないもの。
こんなはずじゃなかった、なんて。後悔するのは性に合わないけれど。けれどもいまばかりは、数日前の自分に恨みの念を向けるばかりだった。
***
はじまりはこの子の言葉だった気がする。
『わたしにも触らせてください』
そうだ、たしかそう言われた。
その夜もたっぷりと、それこそ眸に雫が浮かぶくらい愛した後だというのに、疲れた様子も見えない。対してわたしはといえば、腕から肩にかけてもう持ち上げられないほどの気怠さに憑りつかれているというのに。
『わたしだって気持ちよくしたいんです、キャロルのこと』
彼女はいつにも増して言葉を重ねていく、その様子があんまりにも必死なものだから―深い夜に思考を投げだしていたせいかもしれない―いいわよ、と。答えるやいなや、叱られた子犬のようだったテレーズの眸がぱあと輝く。
初めはおずおずと、まずは鎖骨をなぞって。
拙い指使いではあったけれどそれでも、全身でわたしを愛してくれているのが伝わってきた。それだけで十分すぎるほど満たされていた。
***
だというのに。
「テレーズ、もう…、むり…」
「まだ大丈夫でしょう?」
止めようと伸ばした手の首を捕らえられ、口づけを一つ、二つ、三つ。段々と上ってそれにまた、熱をかき立てられていく。鎮まったばかりだと思っていたのに、わたしの中にはまだ燻っているようで。それを灯せるのは彼女ばかりで。
一度限りのつもりだった。テレーズだってきっと、それで満足してくれるものとばかり思っていた。だというのにあの夜から天上を見上げるのはわたしの方で、彼女はといえばどこで習得してくるのかみるみるうちに上達していく。確実に快感を与えてくるその子に、一体誰に指導されたのかしらと、一抹の不安をこめて尋ねてみれば、全部あなたが教えてくれたことですよ、なんて微笑んで。
そんな意地の悪い笑み、教えたつもりはないけれど。
「…っ、」
つきり、と。胸元に落ちた鋭い痛みに、思考が引き戻される。
痕をつけないでと再三注意しているけれど、今夜もまた、たくさんの紅が散らされているのだろう。一体いつになれば襟の高い服を仕舞えるのか、見当もつかない。
「キャロル…」
名前が触れてくる、彼女だけが紡ぐことのできる、特別な音。たったそれだけで、痕をつけたことも押し倒したことも二度目を求めてくることだってなんだって許してしまいそうになるのだから本当、わたしは彼女に甘すぎるのだと思う。
もう一度、その音が聴きたくて。自由な手で彼女のあごを持ち上げ、夜を受けてきらきら輝く眸を見つめ、テレーズ、と。それだけで意図を全部汲み取ってくれた少女はまたたきを一つ、
「──キャロル」
こぼれた音にはたしかに、いっぱいの愛がこめられていた。
(ねむいわ、テレーズ)
(今夜こそ寝かせてあげますから)
(うそつき)
やっぱり若さには敵わない。
2017.4.22