Coffee and Cute.

(中の人のお話)  思えばこの人との仲もそう長くはない。  世界的に有名な女優との初共演を果たしたのは二年前―撮影自体は三年前―のこと。高潔で近寄りがたいオーラとは裏腹に、誰にでも気さくに話しかける彼女と打ち解けるのに、そう時間はかからなかった。  映画に関連したイベントが終わっても、その交流は続いたまま。時には飲み仲間、時には相談相手として。そうして来年にも、彼女と共演した大作の公開が控えている。  一緒にお茶でも、と待ち合わせたのは、彼女のいまの撮影場所に近いカフェ。忙しい仕事の合間にたびたび、こうして話し込むこともままあった。  陽に透けるほどの髪色をまとった友人――ケイト・ブランシェットが、コーヒー片手にやけに神妙な顔つきをしていた。きっとまた相談事を持ちかけられるのだろうけれど、その内容は聞かずとも想像がついている。 「…ルーニーのことなんだけど、」  ほら、やっぱり。思わずため息をつきたくなった。  堪えたものの、私の表情で察したのか、もう、だなんて子供みたいに頬をふくらませる。私とそう歳も変わらないのにその仕草をかわいらしいと思えてしまうのはやっぱり、彼女の才だろうか。 「髪を、切ってたの、ばっさり」 「そういえばそうね、とても似合っていたわ」  同じく三年前のあの映画で共に演じた件の彼女、ルーニーとの交流もまた続いていた。つい先日会ったばかりのルーニーは、耳にかけられないほど髪を短くしていた。もう三十も近いというのにあどけさなをまとった彼女は、女性と言うより少女と呼んだ方がしっくりときて。  そんな少女と正反対の色を持つケイトは、そうなのよと、深いため息を一つ。 「………かわいすぎるでしょ、あの子」  頬杖を突き、物憂げな顔をして、そんな惚気を向けてきた。  ああやっぱりと、私も別の意味を含んだ息を吐き出す。初めて共演する前から縁があったというこのふたりは、その後もなにかと顔を合わせては仲を深めているのだという。特にケイトは、ルーニーのことがかわいくて愛らしくて仕方がないみたいで、最近私との会話といえば、やれあの映画のこの場面がかわいいだの、あの表情が好きだのと、あの子の話題ばかり。もちろん私は相槌を打つばかりだけれど。  そうして今日も同じ少女の話を繰り出した女優様は、飲みかけのコーヒーの存在さえ忘れてしまう。 「カチューシャもね、とてもかわいかったの」 「そうね」 「眼鏡もね、あの時わたしの横でかけていたものと同じだったのよ」 「よかったわね」 「ねえ、ちゃんと聞いてるの、サラ」  世界中のファンたちを魅了するこの人を射止めるだなんて、末恐ろしい子ね、ルーニー。なんて思いながらも、ひとりの少女のことを一心に話す親友がとても、かわいらしくて。 「──ええ、ちゃんと聞いているわよ、ケイト」  このコーヒーを飲み干すまでは、聞いていてあげることにしよう。 (まるで恋する少女みたいね) (そそ、そんなこと、あるわけないじゃない!) (なんて分かりやすいの、ケイト)
 CさまとSさんは私生活でも仲良しだといい。  2017.4.26