rainy rainy.

 金色の巻き毛がひゅんと、あらぬ方向へと跳ね、ため息をもう一つ。雨の日は嫌いだ、だって自慢の髪さえ言うことを聞いてくれないのだから。  窓の外ではしとしとと、変わらぬ音が鳴り続けている。昨晩からずっと窓を叩いているそれももう聞き飽きた。飽きたからといってこの音が止んでくれるはずもないのだけれど。 「ご機嫌ななめですね」  ふと、雨ではない音が落ちてくる。つられて首を反らしてみれば、逆さまになったテレーズがこちらを覗き込んできた。さっきまで雨模様を切り取っていたはずの彼女は、カメラはどこへやら、ファインダー越しではなくその浅葱色の眸にわたしを映している。  つい今しがたシャッターを切っていた指が伸ばされる。わがままな毛先を捕らえて、巻き付けて、ゆるやかにほどいて。 「ななめなのはわたしでなくこの髪の方よ」 「キャロルにそっくりですね」 「あら、意地っ張りだとでも言いたいのかしら」 「きれいだって言ってるんです」  くすくす、かわいらしい笑みが転がる。いつの間にこんな台詞を吐くようになってしまったのだろうと眉を寄せてみせてもきっと、その表情が本心でないことも見通されているのだろう。  指がまた、金色をさらって、首筋を掠めて。あごが持ち上げられ、後頭部がソファの背に受け止められる。そうして重ねられたくちびるはどことなく、外の世界に降り続いている雨の気配を孕んでいる気が、して。 「機嫌。治りました?」 「─…ばかね、機嫌なんて最初から、」  けれどそれ以上言葉にするのもなんだか癪で、代わりに口づけをもう一つ。口元をますますほころばせた彼女にはどうせなにもかも伝わってしまっているのだろうけれど。  雨はまだ、続いている。 (そうしてわたしたちを世界にとかしこみながら)
 雨の日でもふたり一緒なら、  2017.6.5