だってあなたはぜんぶ、
歪んだeにむ、と眉をひそめる。
「ほらカルロッタ、にげちゃだめじゃない」
「………っ、」
沈んでいく腰を追いかけてつと背をなぞれば、息を呑む気配とともにふるりと、律儀にも再び持ち上がる下半身。
まるでねこみたい、なんて感想を伝えたら、彼女はどんな反応を返すのかしら。眸に険を灯すのか、羞恥に頬を染めるのか、それともなんともない表情でねこじゃないわよとでも言うのか。そのどれもを浮かべる余裕さえ、いまの彼女にはないのかもしれないけど。
今度こそ離れてしまわないよう、こまかに震える右足にまたがりシーツに縫い止める。
スリットをかき分けると、いましがた刻んだ自身の名がまっさらな肌にひとつ。あとは頭文字を記せば、私のサインの出来上がり。
「…グローリア、あなた、」
それまでシーツに顔をうずめてばかりだったカルロッタがちらと視線を投げ、はじめて言葉を発した。
夜を思わせる眸がいまばかりは、頬と同じ色に染まっている気がして。
「まさか油性じゃないわよ、ね」
語尾は乞うように、おそるおそる持ち上げて。
片手でやわらかな腿を抱え、もう片手でペンを持ち直し、ふわり、微笑んでみせれば、安堵したように表情がゆるむ。ペン先を肌に据え、きゅ、と。足の主はまたシーツに顔をうずめ、かたちにならない声をとかす。
そうして完成したサインの上にくちびるを落として、また、腰がわななく。
「安心してちょうだい」
ペンを放り投げ、指先で文字をたどる。インクはにじまない。
私の言葉に顔を上げたカルロッタが、わずかに水の張った眸をまたたかせる。
「ちょっとやそっとじゃ消えないから」
「…っ、あなた、まさか、」
「だって、ねえ、カルロッタ、」
背中に覆い被さり、乱れた髪を撫でつける。
だって、欲に支配されたあなたの表情も色をこぼすくちびるも私をとかしこむ眸も熱を孕んだ頬もつぶさに反応を返す身体もこのつややかな髪の毛一本でさえも、
「──私のもの、なんですもの」
(持ち物にはちゃんと名前を書いておかなくちゃ、ね)
うしろからってロマンだよね。
2018.6.18