いろはにおえど、
01.いたいいたいとなくように
いたくして、と。わたくしの言葉にふと止まる動き。
意図を汲み取るようにまたたきをひとつ、ふたつ、それは難しいわ、だなんて。
傷つけることなんてできないからと言うけども、わたくしはあなた自身を刻みつけてほしいのに、忘れられなくしてほしいのに。
どうして傷ついたような顔をするのよ、あなた。
02.ろうがとけるまえに
蝋燭の火を吹き消せば途端、夜の闇がふたりの隙間に忍びこむ。
身体を震わせたグローリアがきつく抱きついてくる。
彼女が感じているであろう恐怖を少しでも和らげたくて、暗闇の中でもそれとわかる髪をことさら丁寧に撫でた。
「大丈夫よ、…私がいるから」
それにあなた、明るい場所では泣けないでしょ。
03.はかなさをしりました
はねが現れるのではないか、なんて錯覚を覚えそうになる。
つとなぞった肩甲骨がふるりと揺れ、そんな仕草ひとつさえ、蝶が鱗粉をこぼすそれに見えて。
どうしようもなさに駆られ、指で触れていたその部分にくちびるを落とす。
どうかどうか、あなたのはねを手折りいつまでもかごのなかにいてくれたらと。
04.にげないでね
においに誘われ目が覚めた。
気怠さを残す身体を起こし、正体を辿りながらキッチンへ。
スコーンにコーヒー、かしら。
「あら、おはようカルロッタ」
思い浮かべた通りの朝食を並べていたグローリアが微笑む。
寝ぼけた頭が求めるままに彼女を抱きしめ息を吸いこめば、私がいちばんすきなにおいに包まれた。
05.ほんとうのきもち
本音を言えばさみしい。
毎日あなたの顔が見たい、落ち着く声がききたい、子供みたいな笑顔を向けてほしい、わたくしより少しだけ低い体温に包まれたい、隙あらばくちづけていたい、それから、
「…そういうのは酔ってないときに言ってちょうだい」
あら、酔ってないと言えないじゃない、こんなわがまま。
06.へたなうそはつかないで
「…変態」
「あら、褒め言葉?」
「違うに決まってるじゃない、ばか!」
照れ隠しに飛んできた枕を受け止め、ずいとにじり寄る。
彼女の背がヘッドボードにふれる。
もう逃げ場はない。
スリップの裾から指先を忍ばせ内太腿をやわく撫で上げれば面白いほどに身体が跳ねた。
さあ、どうしてあげようかしら。
07.とりあえずわらって
隣からなにやら不穏な気配。
「それでは失礼いたしますわね」
笑顔と挨拶をそこそこにカルロッタの腕を引き、人気のない壁際へと連れていく。
「パーティーでくらい愛想よくしたらどうなの」
「あなたに色目を使う輩に振り撒く愛想は持ち合わせていないの」
ああもう、うれしいと思ってしまう自分も大概だわ。
08.ちょうしにのらないで
「ちから、ぬいて」
やれるものならとうにそうしている。
けれどグローリアの毛先が肌をなぞるたび、吐息がふれるたび、視線がかさなるたびに、身体がきゅうと勝手に反応し埋まった彼女の指のかたちを私に教えてくるのだから仕方がない。
まぶたを開けば満足そうな表情。
わかってて言ってるでしょ、あなた。
09.りゅうれいに
凛と響いた声に我知らず息をこぼしていた。
はじめて耳にする、音。
わたくしを内から揺さぶるその声に抗いたくてぎゅうと目を閉ざす。
引き立て役のくせになんて生意気なの。
滔々と語る彼女に物申そうと振り返り、だけど瞬間、後悔した。
だって声よりもまだまっすぐな宵色の眸に射抜かれてしまったから。
10.ぬがしてしまおう
布を一枚、一枚と剥ぎ取っていく。
こんなにも寒さの厳しい夜だというのに、彼女の肌はやけどしそうなほど熱を孕んでいて。
ちら、と。
それまでただされるがままに伏していた眸が持ち上がる。
水槽色のそれにとかしこまれた途端、身体がかあと火照る、まるで熱を移されたみたいに。
残す布地はあと、二枚。
11.ルールくらいまもってよ
ルージュがきゅ、と音を立てる。
くちびるを軽く合わせ、均一に馴染んだことを確認した彼女が鏡越しに微笑んだ。
ええ、ええ、きれいに塗れていますとも。
なにもわたくしが起きる前に化粧を済ませてしまわなくてもよかったじゃないの。
「すねないの」
機嫌を直したいならくちづけなさいよ、できるならね。
12.おいそれと
.
おそろいの歯ブラシにマグカップにクッション。
グローリアが家を訪れるたびひとつひとつと物が増えていく。
だっていちいち持ってくるのは面倒じゃない、とは彼女の言。
それはわかるけれど、私まで揃いの物を買う必要ないじゃない。
「あら、わたくしとおそろいが嬉しくないの?」
答えは知ってるくせに。
13.わるかったわね、すなおじゃなくて
「わがままよね、意外と」
呆れた調子を装ってみたってきっとこの人は断れないことも嫌がってさえいないこともお見通しなんだろうけど。
その証拠にほら、愉快そうに口の端を持ち上げて。
癪だけど拒絶するのもかわいそうだから仕方なく広げたその両腕に収まってあげれば、素直じゃないんだから、と一言。
14.かわいらしいこ
「かわいい」
どうやら感想がそのまま音になってしまっていたみたい。
私の声を聞きつけたグローリアが振り返ると同時、裾がふわり舞う。
タイトな衣装をまとうことの多い彼女には珍しく、今日は花が開いたようなスカート。
「当然よね、だってわたくしですもの!」
胸を張るのはいいけれど、真っ赤よ、顔。
15.ようやく
「要するにすきってこと?」
「なっ、」
たとえばつい視線で追ってしまうこと、ふれたいと願うこと、名前を音にしたいということ。
彼女が挙げた事柄を整理すればつまりわたくしのことがすきだという結論になるのに。
「すき、じゃ、ないわよ」
「わたくしはすきだけど」
「え」
ほら、そろそろ認めなさいよ。
16.ためいきはしあわせいろ
谷間から鎖骨へかけて赤々と走る痕に、深いため息をひとつ。
「ため息つくとしあわせが逃げるわよ」
「だれのせいだと思ってるの」
「わたくしのせいじゃなきゃ困るわね」
楽しそうに笑うその人に私の憂鬱は伝わらない。
もうすっかり夏だというのに、一体いつまで首元の窮屈な服を着なくちゃいけないのよ。
17.レパートリーをひろうさせて
練習してきたのよ、ええ、うんとね。
だってわたくしの方が年上だから、リードしてあげなくちゃと思って。
まず震えるあなたの頬を包みこんでくちづけて、やさしく押し倒して、こわがってしまわないように一枚ずつ取り去って──なんて想像していたのに、どうしてわたくしが天井を見上げているのかしら。
18.それって
「そういえばあなた、猫にでも引っ掻かれたの、これ」
私の疑問に首を傾げたグローリアの背中には、幾筋もの赤い線が走っていた。
まっさらな肌に痛々しく残るそれを慎重にたどれば、カルロッタってば無意識だったのね、とどこか楽しそうな声。
「そうね、どうやらかわいらしい猫にやられちゃったみたい」
19.つけて
爪が皮膚に食いこむ感覚に思わず眉をひそめる。
整ったそれの持ち主はどうやら無意識のようで、ぎゅうとしがみつくにつれ鋭い痛みが増す。
それほどわたくしに──わたくしの与える快感におぼれているのだと、そう思えばこの痛みも悪くない。
「─…ねえ、もっと、」
先を求めたのは一体、どちらだったか。
20.ねこにじゃらされる
猫みたい。
素直な感想を口にすれば、私の膝に頭を乗せたその人はじとりと据わった眸で見上げてきた。
髪を撫でつけられしあわせそうに目を細めていたその様子を猫と言わずしてなんと例えるのか。
かわいらしさに頬をゆるめれば、ひたり、太腿を掠めた指先に身体が震える。
「猫がこんなことするかしら?」
21.なによ、もう
鳴り響く鼓動を抑えられない、だってこんなに距離を詰めたのははじめてだから。
細やかなまつげが間近でまたたく。
それに合わせてわたくしの鼓動も大仰に跳ねて。
勇気を出して抱きついたんだから、もうひと頑張りよ。
自身を励まし顔を上げたのに、先にくちびるを重ねてきたのは彼女だった。
22.らくにさせて
爛々と輝く眸が、まだ夜は続くことを知らしめてくる。
もうゆるしてと懇願する声さえ取り出せない。
音にする力が残っていたとして、彼女の手ですぐ色にまみれたそれに変えられるのだろうけれど。
「まだあるわよね、余裕」
否定する気力もないことを知っていながら尋ねてくるんだから本当、意地の悪い子。
23.むざむざと
むう、と。
子供みたいだとわかっていながらそれでもふくれる頬を戻せない。
だってだって、わたくしと一緒だっていうのに全然構ってくれないんだもの、へそも曲がるわ。
わたくしとは対照的に、カルロッタの膝を陣取った彼はご満悦。
「あら、あなたも膝枕されたい?」
「結構よ!」
ああもう、意地っ張り!
24.うわべはいらない
「うそつき」
私の指摘に強張る身体。
彼女のことなど全部お見通しだというのにそれでもしらを切るその様子がかわいらしい。
つ、と。
足の付け根をなぞり上げれば、堪えきれずにあふれた欲が指先を濡らしていく。
ぎゅうと眸を閉ざすグローリアの耳元でふと笑みをこぼして、
「早く素直になってしまいなさい」
25.いいわね
「潔く降参しなさいよ」
促してみたって、さっきから首を縦に振るばかり。
下ろした髪が肩を滑るたびにびくりと身を震わせているように見えるのは気のせいじゃないわよね。
いいわ、あなたがそのつもりなら、わたくしだってもう手加減なんてしない。
「─…すきにして」
泣いたってやめてあげないんだから。
26.のびてくるてをこばめない
ノー、と、きっぱり拒絶できたらよかったのに。
「…だめ?」
潤んだ眸に自身の姿を落とされただけで怯んでしまう。
今夜こそはと思っていた。
最近天井を見上げてばかりいたから、今夜こそはグローリアの背をシーツに沈めてみせようと。
「…だめ、じゃない、わ」
「やったあ!」
ねえ、涙はどこへ行ったのよ。
27.おちていく
おくをぐじゅぐじゅとかきまわされるたび、めのまえがちかちかまたたいて、なにもかんがえられなくなって、
「グローリア、」
あなたのおとだけがわたくしをみたす。
まわらないしたでなまえをつむいで、しがみついて、たいおんまでもあなたとまじわって、
「─…すきよ、グローリア」
そんなのわたくしも、
28.くらいあいだはあなたのもの
悔しいけれど完敗。
両手を上げ降参の意を示せば、対戦相手は子供みたいに喜んだ。
今夜ひと晩勝者の抱き枕になる、という条件のもと始めたチェスはなんとグローリアの圧勝。
敗北を喫するのはいつも彼女の方だというのに、こういうときばかり強いんだから。
きっと今夜は大人しく寝かせてもらえないわね。
29.やめてなんていえない
「やだ?」
思わずこぼれた声を耳聡くも聞きつけたカルロッタが聞き返してくる。
ぴたりと動きを止める指。
「じゃあ、やめましょうか」
もどかしさに足をすり合わせていることに気付いているくせに、いじわる、いじわる、いじわる!
「…や、じゃ、ないから、」
「だから?」
「…つづき、して」
「いいこね」
30.まねしないでよ
まさか主導権を握られる日が来るだなんて。
悔しさに反して、腰は彼女の指を奥へ奥へといざなう。
くす、と。
ゆるく口角を上げたその表情にさえ切なく疼いて。
ぴたり、いつかの私がしたのと同じように動きを止める指。
思わずくちびるを引き結ぶ。
楽しそうに彼女が笑う。
「どうしてほしいか言ってみて?」
31.けのさきまであいして
毛先をくるくる指に巻きつけ、ほどいて。
艶のある髪がカルロッタの肩をすべり落ちていく、その光景さえまぶしくて思わず息を呑めば、くつくつと鳴るのど。
あなたの髪と戯れるのももちろん楽しいのだけど、そろそろわたくし、我慢の限界よ。
だって肌を撫でるその髪さえ羨ましく思えて仕方ないのだから。
32.ふれるきょり
ふたり分の体重を受け止めたソファが深く沈む。
「もう少し寄ってくれないとはみでちゃうわ」
「それならベッドへどうぞ」
一応進言してみても案の定、聞き流したグローリアは隣に窮屈そうに横たわった。
せまいわね、なんて文句を垂れながらもその表情は満面の笑み。
もう少し大きいソファを買わなくちゃ。
33.こわいのはきらい
「声がしたのよ!本当よ!」
「これで四度目よ、グローリア…」
呆れるのもわかる、何度も起こしてしまって申し訳ないとも思っている、だけどこわいものはこわいの。
だって物音に話し声、今回は触られた感覚さえあったのよ。
「そういえばあの人影…」
「ねえ!ちょっと!意味深な言葉を残して寝ないで!」
34.えがきだすのは
えがいたそれを眺め、我ながら完璧だと自身の仕事ぶりを褒める。
ざらざらとした紙に写し取った輪郭を指でなぞり、薄く開いたところまでそっくりそのままなくちびるにそ、と。
くちづけたところで、モデルがもぞりと身動く。
「ん…、おはよ、カルロッタ」
スケッチブックの中の彼女はまだ、眠ったまま。
35.てなれすぎてないかしら
手を握るのならいましかないと思った。
この人混みで離れるといけないから、あなたの歩く速度がはやすぎるから、見失いそうだから──理由をいくつも考え、気合をひとつ。
だけどそれよりも早く指先をとらえる彼女のそれ。
「手。繋ぎたいような顔してたから」
なによ、理由なんていらなかったんじゃない。
36.あたたかいのね、あなた
会いたい、だなんて。
多忙なあなたには言えなくて、だからわがままを抑え代わりに言葉を綴った。
もうすぐ春ね、なんだか一年が長かったわ、今年のロストリバーデルタは冷えこむみたい──そんな文に届いたのは返信ではなく、
「会いたいなら会いたいってちゃんと言いなさいよ」
ぬくもり、だった。
37.さいしょはわたくしからと
先を、越されてしまった。
かあ、と頬にのぼる熱。
「…先に言おうと思ってたのに」
わたくしの表情を見とめ安堵したように、ともすれば泣き出さんばかりにくしゃり、顔をゆがめるカルロッタ。
ずるいわ、そんな顔、こっちまで泣いちゃうじゃないの。
「すきよ、カルロッタ、わたくしもね、うんとすきなの」
38.きせきのはる
軌跡を追う視線がどこか嬉しそうに見えて。
「グローリアってば、そんなに冬がすきだったの?」
尋ねれば、ふ、と。
笑みとともに白い吐息がまたひとつ。
「いいえ、そうではなくてね」
冬が過ぎれば春が巡ってくる、爛漫ときらめく季節がやってくるから、と。
「あなたと出逢った季節にもうすぐ会えるから」
39.ゆめかうつつか
ゆるり、睡魔が足音を忍ばせ近付く気配。
寝てしまいなさいだなんて声さえ眠りを誘う。
いやよ、わたくしまだ眠ってしまいたくないの。
子供みたいな駄々をこねながらもまぶたは重力に従順で。
だってまだ、あなたの気持ちを聞いてないもの。
ほどけていく現実の中で最後に彼女が、私もよ、とだけ囁いた。
40.めざめないでといのりをこめた
目覚めたときには、夢に落ちる前に交わしたなにもかもを忘れていますようにと願うばかり。
だって、すき、だなんて。
彼女の声が離れない。
きっと眠さのあまりだれかと勘違いしていたに違いない、そう言い聞かせないと期待してしまいそうで。
「─…私も、すき、よ」
眠るあなたにしか打ち明けられなくて。
41.みられるにきまってるじゃない
「みんなには内緒よ」
これ見よがしに音を立てて離れていくくちびる。
にい、と面白そうに持ち上がったその鮮やかな紅が憎らしい。
どうせわたくしが慌てふためく様を想像しているんでしょう。
ああもう、首筋にくっきり歯形を残すだなんて。
明日もショーが待っているのにどう内緒にしろっていうのよ、ばか。
42.しがみついていられるのもいつまで
「しつ、こいわよ、グローリアっ」
伸ばした手はけれど簡単に絡め取られた。
真っ赤な舌が爪をなぞる。
じゅ、と立てられた音ひとつにさえ反応を返す律儀な身体が憎い。
だって長針が一周する間ずっとくちづけを降らされているのだ、過敏にもなる。
「はやくねだればいいのに」
絶対に屈してやるものですか。
43.えらくかわいいわね
「え、」
間の抜けた声の続きはやわらかなくちびるに奪われていった。
呼吸分ほどの距離を取ったカルロッタは、なにが面白いのかくすくすと、まるでちいさな女の子みたいに笑う。
隙あらばちゅ、ちゅとくちづけられながら、酔っ払うとこんなふうになるのね、と。
わたくしも無邪気に酔えればよかったのに。
44.ひとりでかんがえてもなにもおもいだせない
光がまぶたを揺り起こす。
耳にまで届く頭痛によればどうやら昨夜、ワインを手土産にやってきたグローリアといくつも瓶を空けそのまま眠っていたらしい。
上体を起こすと同時、隣から響くうめき声。
身体を覆っていたシーツが落ち、金糸が露わになって。
ちょっと待ちなさい、どうしてふたりとも裸なのよ。
45.もういいかい
──もう少しでくちびるがふれるところだった。
ショーの打ち合わせにと隣室を訪ねてみれば、部屋の主は夢の中。
その寝顔が普段の凛々しい姿とは打って変わってあんまりにもあどけなかったものだから、いとおしさがこみ上げたものだから、だなんて。
「…早く起きないかしら」
そうして早く、くちづけを。
46.せいいっぱい
背筋を走るぞわりとした感覚にはまだ、慣れない。
逃そうと反る腰の動きを悟られたくなくて必死に押し留めるけれど、どうにも殺しきれなかったそれを目敏くも見つけたグローリアの紅が意地悪く持ち上がる、またぞわぞわと、はい上がって、
「ねえカルロッタ、わたくしまだ、キスしかしていないのだけど」
47.すなおね、いがいと
「すきよ」
「知ってるわ」
目の前の微笑みは動じない。
もうわたくしからの愛の言葉に慣れてしまったのだろうか。
不動の笑みをどうにか崩したくて一思案。
つ、と彼女の耳にくちびるを寄せ、はじめてそれを音にする。
「──あいしてるわ、カルロッタ」
途端、かあと紅に染まる耳に、微笑むのはこちらの番。
48.ん、からはじまる
んん、と。
私を夢から引き上げたのはまどろんだ声。
まぶたを開いて最初に飛びこんできた太陽色の髪に、ゆるむ頬がとめられない。
夢から覚めてもまだ夢が続いているようで、夢にえがいたしあわせがそのまま現実となったみたいで。
ぎゅうと引き寄せ、私だけの太陽色に顔をうずめ、しあわせを吸いこんだ。
(どこにも消えてなくならないしあわせをだきしめて)
48の彼女たち。
2018.11.18