そのつもりなのは当人ばかり。
かくしていたって、あなたの表情を見ればすぐにわかるんだから。
ずいと距離を詰め、いたずらに口角を上げたグローリアの言葉に胸がどきりと嫌な跳ね方をした。
あら、なにがわかったというのかしら。動揺を悟られぬよう平静を取り出し微笑みを向ける。我ながら毎度上手に浮かべられるものだと自賛するのは心の内でだけ。本心を押し殺すことにももうすっかり慣れてしまっていた。簡単なことだ、本気に受け取らなければいい。熱のこもった視線は私のファッションが物珍しいから。やたらと触れてくるのはスキンシップがすきなだけ。彼女が繰り出すすきという単語は友人として。深い意味なんてあるはずないと、呪文のように自分に言い聞かせ、笑顔を張りつける。
普段ならばこの表情にころりと騙されてくれるはずの彼女はけれどまたこちらに迫り、人差し指の先を眼前に突き付けて。お行儀が悪いわよ、なんて私の声に耳を貸すことなく、だって、と。
「嫉妬。してたでしょ」
「な、」
「ふふん。ほら言ったじゃない、表情を見ればすぐにわかるのよって」
思わず言葉を詰まらせたことがすなわち肯定とみなされてしまい、目の前の表情が得意そうに綻んでいく。
あなたってすぐ顔に出るのよ、知らなかったでしょ。続く言葉にただただ頭を抱えるしかなかった。まさか。まさか仮面の奥のその向こうに本心を隠しきれていると思っていたのは自分ばかりで本当は、当人にさえ勘付かれてしまうくらい洩れていただなんてそんな。
「ほらカルロッタってば、間に割って入ったときすごい表情向けてたじゃない、ヒューゴーに」
ああもう、穴があるならいますぐにでも入りたいのに、現実には穴どころかグローリア自身によって退路さえふさがれていて。
「そのあと私を振り返った顔なんてもう、満面の笑顔で。気付かないはずないじゃない」
「もうやめて…」
「ほら、照れてる。ほんとかわいいわよね、あなたって」
これはなんだろう、思うさま羞恥にさらされているこの時間はいつ終わるのか。耐え切れなくなって顔を覆えばその手を取りさらわれ、もう一歩踏み出したグローリアのくちびるが笑みのかたちのままちゅ、と音を残していって。
ああかわいい、だなんて、仮にも年上に向かってもう一度。
「だってかわいいんだからしかたないじゃない」
「言ってないわよ、なにも」
「語ってるのよ、表情で」
ああもういやだわこの子。
(もういっそマスクに変えてしまおうかしら)
グローリアちゃんにはぜんぶぜんぶばれてるといい。
2018.4.6