秋に告ぐ。
今日も妹たちは騒々しい。
「お姉さまぁ!」
私を呼ぶ声に、落ち着きのない足音。おまけに背後から突然抱きつかれるという衝撃まで。ふたり分の体重を倒れ伏さずに受け止めた私は褒められてもいいはずだ。
四本の腕が首に絡みつく。これでは振り向くことさえままならない。
「ねえお姉さま、これ見てちょうだい!」
「見てほしいのなら離れてもらえるかしら」
ぎりぎりと締まる喉から絞り出した声にようやく拘束が解かれる。
ひと呼吸ついてから望み通り視線を向ければ、どうかしらとばかり、揃ってスカートの裾をつまみ上げる妹たち。彼女たちが纏っているのは、この秋に開催される祝祭の衣装だった。
その昔、葉の色が深まる季節。人々は海の仲間をモチーフにした仮装を楽しんでいた。各々素性を隠し、妖しくも気品溢れる衣装を身に纏う。そんな伝説のハロウィンはもう目の前にまで迫ってきていた。
ふたりが着こなしているそれらも、優雅な祝祭を彩るに相応しいものだった。絞ったウエストから優美に広がるアシンメトリーの裾。腰元には、私たちセイレーンの名を象った意匠が施されている。
私もつい先刻、自身の衣装を確認したばかり。妹たちとは異なるタイトなスカートラインは、けれど足に纏わりつくことなく、かつ身体の曲線を艶やかになぞるものだった。
「ね、ね、素敵でしょ!」
「このまろやかなラインとか!」
「甘やかなギャザーも!」
「さすがアメリカン・ウォーターフロントが誇るアーティストなだけあるわ!」
興奮した様子の妹たちは、私の感想を聞くより早く口々に件のファッションアーティストを称賛する。ふたりのように口に出しはしないけれど、私だってその充分すぎる出来映えに満足していた。
久しぶりに開催される祝祭を盛り上げるべく、私たちや参加者の衣装デザインを、様々なポートのファッションアーティストが担当することとなった。その中でも特に名高いアメリカン・ウォーターフロントのアーティストは妹たちふたりの、ロストリバーデルタのアーティストは私の衣装を、それぞれこしらえてくれたのだ。
各々信条とするテーマは異なっているというのに、私たちのそれは統一の取れた、けれどこだわりが織りこまれた仕上がりなのだ。専門家でなくとも舌を巻かずにはいられない。
そういえばそのアーティストたちも祝祭に足を運ぶと言っていた。恐らく出来を己の目で確認するためだろう。私に似つかわしくないけれど、もし出会えれば礼のひとつくらいは伝えておきたい。
手を繋ぎ、まだはしゃいでいる様子の妹たちの姿に、こぼれるのは笑み。
「──秋が楽しみね」
心躍る季節はすぐそこに。
(ところでお姉さまも着てちょうだいよ)
(嫌)
(どうして)
(だって絶対おもちゃにするでしょ、あなたたち)
ハロウィン2019がはじまる前の妄想。妹たちは双子。
2019.8.31