よってよわせてそうしてしずめて、
何事においても要領のよい末の妹は果たしてベッドの上でも優秀だった。
はじまりはなんだったか、アルコールがもたらす心地良い酔いに呑まれてもう覚えていない。けれどもたしか一番最初に潰れた自身の姉を手際よく部屋に運んだ末妹が、もうお開きよお姉さま、と大事に抱いていた酒瓶を私から取り上げたような気はする。
ちゃんと自分の足で歩いたのか、それともいつもと同様引きずられていったのか。とにもかくにも自室にたどり着くやいなや釦を外す私に、そんなむやみに脱いじゃだめでしょ、とどちらが姉かと問いたくなるような呆れ声を投げられた記憶もある。だれかに襲われちゃっても知らないわよ、と両手で襟を寄せる妹。だれも襲いやしないわよ、とその手を振り払う私。
ああそうだ、段々思い出してきた。
自らシャツを脱ぎ捨てスカートを雑に落としたところでとんと肩を押され、気付けば末の妹のそれはそれは恐ろしいほど綺麗な笑みを見上げる体勢に持ちこまれていたのだ。
ようやく状況を掴めたばかりの私にお構いなく、背に伸びてきた指がぷつりと下着のホックを外してくる。さすが私の妹、手際がいい、
「いやいやちょっと待ちなさい、こら、」
などと感心している場合ではなくて。
酔いが音を立てて醒めていく。
慌てて下着を押さえると、原因を作ったその人が不服そうに頬をふくらませた。姉の威厳を守れるか、否、イニシアチブを取るか取られるか、否、そもそも貞操を奪われるかどうかの瀬戸際なのだ、必死にもなる。
別に後生大事に持っていようなどと考えていたわけではない、かといって誰かに捧げようと決めていたわけでもないけれど、それでも、よもや実の妹に貰われるために貞淑でいたわけではけっして、けっしてないのだ。
「ねえお姉さま、手をどけて」
ぐ、と。困ったような表情で、ねだるみたいな声音で、なんとか下着を身につけていようと奮闘している私の指をひとつひとつと開いていく。渾身の力で押さえつけているというのに着実に引き剥がされているのは私の筋力が衰えたせいかそれともこの子が異様なほど強いせいか。考えるまでもなく後者に違いない、だって妹に体力面のなにもかもで勝ったことがないのだから。それでなくても姉ひとり抱えていけるほどの筋力だ、敵うはずもない。
徐々に外気に晒されていく肌。勝機なんてとんと見えないけれど、抵抗を緩めるわけにはいかない。曲がりなりにも私たちは血を分けた姉妹。たとえ酒の勢いだろうと若気の至りだろうと、交わるわけにはいかないのだ。
「往生際が悪いわよ、お姉さま」
対する妹はすでに私の体力が尽きかけていることを察知しているようで、楽しそうな声とともに一気に腕をひとまとめに捕らえられた。
弾みでずれた下着のワイヤーが頂きを掠めていく。突然の刺激に思わずこぼれそうになった声をすんでのところで堪えたはずなのに、それさえも見逃してくれなかった妹はますます口角を持ち上げて、ねえあなた、いま誰よりも悪い顔しているわよ。
空いたままのもう片方の手が胸の輪郭をなぞり、あばら、脇腹、へそをたどり落ちていく。目指す場所を問うほど子供ではない、ないけれど、ついでにふれたこともふれられた経験もない。
つ、とショーツの縁をなぞる指。爪先が肌をやわく引っ掻く。おなかの奥にぐずりと、身を焦がすほどの熱が溜まる感覚を、私は知らない。それ以上はだめだと本能が告げるのに、手首を掴んだ力は緩む気配を見せてくれない。
人差し指一本。たった一本だけが右へ左へと往復し、そうしてついに、かたく閉じた足の隙間に滑りこんできた。
「あら、」
ああうそ、信じたくない、だってまだ──ぐちゅ、と。耳を覆いたくなる音が身体をつたう。背筋に走る甘やかな痺れに知らず反る腰。行き場のない足がシーツを掻く。くちびるを噛むことでどうにか刺激を逃がそうとするのに、なにもかもを見透かしたこの子はそれを許してくれない。ショーツごと指を沈めこまれて、ぎゅうと強張る身体、知らない圧迫感に息が詰まる、声にならない音がいくつもこぼれて、視界がまたたく、水の張っていく世界と頬に流れる熱、依然手首を縛ったままの指になんとか縋りつく、助けて、ねえたすけて、
「まだまともな愛撫ひとつしてないのにお姉さまったら、」
そんなにほしかったのかしら。
布地が内側をこする、ひ、とのどから転がり出た音には疑いようのない歓喜がとけていて、爪を立てる、シーツの衣擦れひとつにさえ反応した身体がぎゅうとなかを締めつけてもうだめと言葉にできなくてただかたくまぶたを閉じて一瞬、思考が染まった。
は、は、と途切れ途切れに酸素を求める。ついいましがた全身を駆け抜けたそれの正体を知らない、知らないけれど、知りたくはなかった。
「いいこね、お姉さま」
額にまぶたに頬に鼻先にくちづけが降る、まるでご褒美とばかりに。やわらかな熱にまたおくが切ない声を上げる。
そうして気付いた、だってまだ、
「ええ、まだまだ終わらないわよ」
「っ、あ、や、ぁ、」
反論をする間も与えられずまた押し広げられ、鈍くなる思考、だめ、なにも考えられなくなってしまう、
「──たくさんおぼれてちょうだいね、お姉さま」
かすかに残った理性が最後に見たのは、私のくちびるに迫る赤いあかい舌、だった。
(よわされていく、)
せめせめな末っ子にたじたじな長女。
2019.10.27