夜におぼれる。
姉自らその身を委ねてくるだなんて、珍しいこともあるものだ。
湯上がりだろうか、まだ水分を含んだ髪から私と同じ香りがする。いつもは心配になるほど冷たい身体が熱を孕んでいる。見上げてきた深海色が揺れているように映るのは気のせいか。ああそれよりも、自分と変わらない香に酔わされそう。
赤く熟れたくちびるが私の名を紡ぐ。たったそれだけで、まるで魔法にかけられたように動きが止まってしまう。
「抱いて」
姉の願いは私にとって命令に等しい。それでなくとも否と拒絶するはずもない。
ガウンの紐を解く指が震える。いつもならくすくす笑いながら咎めるはずの姉はけれど指先を見つめるばかり。重たい静寂の中、肩を滑り落ちるタオル地。薄闇に冴え冴えとした肌が浮かび上がる。胸の下から両の脇腹へと走る深海色の鱗はいつ見てもため息がこぼれてしまう。私の身体の同じ場所に同じものがあればと何度願ったことか。
手に余るやわらかな胸を支え、ちゅ、と。その頂きに恭しくくちびるを捧げる。ひとつ、ふたつ、みっつ。数えきれないほどくちづけたころにほんのりと立ち上がったそれに笑みが広がる。たしかに私を感じてくれている、私の愛撫で熱を高めてくれている。なによりも素直な証拠にこちらまで熱が燻る。
つと仰ぐ。底の窺えない眸が私を見下ろしている。先へ進む赦しを与えられた指が鱗をたどる。指先から伝わるざらりとした感触。この美しさに唯一私だけがふれることを赦されているという事実に胸が震える。
かたちのよい臍をぐるりと一周、爪先でいたずらに茂みを掠めれば、姉の喉がはじめて鳴った。
どうか御赦しを、お姉様。乞いながらその身体を引き倒した。海を宿した眸が私を見上げる。なにを思っているのかまるで読めない色に、じくりと、腹のうちが切なく声を上げた。
しなやかな左脚を持ち上げれば、姉の柳眉がひそやかに寄る。以前はそれだけで竦んでしまっていたけれど、今夜は誰であろうこのひと自身が誘ってきたのだ、今更止まれるはずもない。
左の中指が湿った茂みをかき分ける。充分に潤った入口をなぞっただけで、持ち上げた脚のつま先がぴんと張った。く、と指を埋める。きゅうと締めつけてくるそこにこちらまで息が詰まる。痛みのないように、快感だけをたどれるように、暫く第一関節だけを遊ばせる。指先がようやくざらりとしたそこを捉えた瞬間、まっさらな喉が痛いほどに反った。知らずのぼる笑み。こするたびあふれ出る欲のかたまりで指を滑らせ更に奥へ。指の根元が一際強く圧迫される。親指で花芯を嬲れば面白いくらいに腰が跳ねる。
まおうさま。声が躍る。ああ、まおうさま、どうか。甘ったるい響きが鼓膜を支配する。深海に沈んだ眸はもはや私を映してはいない。背に回った手は私を求めてはいない。わかっている、だって最初からそうだったから。
噛みつくようにきつくきつく、鎖骨に痕を残す。喉から声がまろび出る。きっと明日大層叱られるのだろうなと覚悟しながらもそれでも堪えることはできずもうひとつ、あとひとつ、首筋に胸にと落としていって、けれどくちびるにだけはふれられないまま。
増やした指で内襞を押しつぶす。歓喜に洩れる音を塞ぎたかった。背を掻く指を絡め取りたかった。けれど私には、いまの私には、到底。
ああお姉様、聡明で愚直で愚かなお姉様。どうか早く目が覚めますようにと、祈りをこめて小さな頭をかき抱いた。
(祈ることしかできない私は、)
あなたも、わたしも、いまは深い水底に。
2020.5.1