逢瀬の狭間に見る夢は、
目覚めた瞬間のおぼろな感覚は、時に不安さえ運んでくる。
「─…アグナル?」
隣で首を傾げている妻が本当にそこに存在しているのか、それさえも曖昧で。またたきをしたその一瞬のうちにかき消えてしまいそうで。
手を、差し出す。頬をすり寄せてきた彼女の体温が手のひらを通じて全身へと巡っていく。わずかにぬくもりを失いつつあるそこはそれでも彼女が夢や幻などではないというたしかな証拠として指先にあとを残していた。
どうしたんですか、と。動いたくちびるを辿る。言葉一つ一つを呑み込んで、乾いてきた眸にいい加減水分をとまたたきを一つ。ぬくもりは消えない。
安堵すれば、一体なにに悩んでいたのかもう思い出すことさえ億劫だ。どうしたの、いつものように眉を寄せて距離を詰めてきた彼女の両頬を捉えて、熱を奪う。
「うー…つめたい」
眉間にしわまで刻んで洩らすのだからよっぽどなのだろう。
あなたみたいになっちゃった、なんて。つぶやいた彼女はひとりで微笑みをこぼす。どういう意味かと尋ねる前に白い手が伸びてきて、眉間を一撫で、困り眉、と。知らず寄っていたらしい眉がとかれていく。
「そろそろ起きた?」
小首を落としたと同時、下ろしたままの髪が肩を流れていく。さっきまで眠そうだったからと、頬に添えたきりの手に重ねて。
「まだ、」
「むぁ、」
それだけの熱では、むき出しの肌には十分でなくて、寝ぼけているなんて大義名分を掲げて身体を引き寄せた。顔を押し付けた格好になった彼女は気の抜けた音を一つ、腕の中にすっぽりと収まってくれる。
髪に指を通せば、季節とは真逆の春のにおいが鼻孔をくすぐっていった。
「もう少し、眠っていたい」
「…もう。ねぼすけなんだから」
もごもごとくぐもった声は呆れを含んではいなくて。
どうせ眠るなら君の夢が見たいな。視界を閉ざしてつぶやけば、わたしはいやですとにべもなく拒絶されてしまう。
「出逢うなら、現実の世界がいいの」
ここで出逢っていたいの。
笑顔を向けてくれていたのは現実の彼女か、それとも夢の世界の住人なのか。どうか前者であってほしい、そんな願いはまどろみに沈んだ。
(それでも私はどんな時だって逢いたいと願うよ、君に)
いつだって傍にいたいから、
2014.12.12