刺さった氷をとかす術は、
娘と同じように彼女もまた、氷に支配されていた。
「──ぁ、」
夜闇にとけた吐息が合図。視界を開けた時にはもう、目の前の両手は彼女の首にかけられていた。白い手の甲に血管が浮かび上がるほどの強い力が加えられている、だというのに離そうともしない、呼吸さえ止まってしまっても構わないというように。
「イデュナ…っ」
慌てて指を引き剥がす。首にはもう十本の痕が残ってしまっていた。襟の高い服を着させないとアナにいらぬ心配をかけてしまうなと、頭の片隅で思ったのはそんなこと。もっとも子供たちの前では、彼女も平静を保っているのだから、痕を見つけられるなんてことはないだろうが。
いやいやと首を振るイデュナの指と自身のそれを絡めて、思いきり握る。どうか我に返ってくれるようにと、どうか自分を責めないようにと。願いはいつも届かない。
「やめて…離して…!」
「イデュナ、聞いてくれ、イデュナ」
「やだ、エルサ、わたしのせいで…エルサ…っ」
うわ言のような言葉を繰り返して、彼女は泣き叫ぶ、氷の粒のような涙を流して。
娘を閉じ込めてしまったのは自分のせいなのだと、誰にも会わず孤独にさせてしまったのは紛れもなく自分なのだと、そう思ってしまっているのだ、イデュナは。彼女だけのせいではないのに、私の方にこそ罪はあるというのに、その言葉さえ聞き遂げてくれなくて。そうして夜中に目を覚ました彼女は必ず、息を止めようとしてしまうのだ、エルサに詫びを入れながら。
暴れる身体を無理やりに抱きしめても、大人しく腕の内に収まってはくれなかった。ごめんなさいとそればかり、私のことなど見えていないかのように。
「君がいなくなったってエルサが解放されるわけではないんだ」
「やあぁ…っ、エルサ、ごめんね、」
「君がいなくてはだめなんだ」
私にも彼女がいてくれなくてはだめだった、ひとりだときっと、彼女みたいに押し潰されてしまうだろうから。どうか早く夜が明けますようにと願うのに、月明かりは無情にも窓から差し込んでくる。
後悔の夜はいつまで続くのか、いつまで私たちは氷に縛られるのだろうか。私を見てくれない妻は答えをくれなくて。
(あるいはきっと、どこにもないのかもしれない)
それでも責めることでしか自分を保っていられなくて、
2015.11.2