そうして夜はやってくる。
肌を重ねたのは随分と久しぶりな気がした。だというのにこの感触も、体温も、彼女が洩らす吐息すべてを覚えている。背中にひそやかに立てられる爪も、耳元でこぼされる名前の響きも、なに一つだって変わってはいない。いや、一つだけ挙げるのなら、眸の色が少女から成熟したそれへと変化したかもしれない。妖しく艶を帯びたそれに、ともすれば翻弄されてしまいそうになる、おかしい、乱れさせているのは私の方だというのに。
促されるまま途切れてしまいそうになる理性をなんとか繋ぎ止め腰を引けば、鈍い水面色に光る眸が恨めしく細められた。いままさに行っていることに反してその表情がなんとも子供っぽく、思わず笑みを覗かせてしまいそうになる。
「…今日はえらくいじわるですね」
「さて。なんのことやら」
腰を揺らめかせ誘っているのは彼女のくせしてそんな戯れを吐くくちびるを塞ぐ。鳥のついばみにも似たそれにますます頬はふくらんでいくばかり。私の知っている彼女なら羞恥に負けて愛の言葉一つ贈ってくれることはなかったというのに、これは一体どういう変貌ぶりか。もちろん、嬉しくないわけがない。
暗に先をせがむくちびるをなぞっていく、欲を込めて。
「せっかくこうして触れられたんだ、長く味わっていたいだろう?」
娘を案じていた頃はどこか後ろめたさのようなものに責められ、ごく稀に交わる時でさえ私たちの間にはいつも罪悪感がいた。だが娘が、娘たちが愛を知ったことで、私たちもまた思い出すことができた、こうして触れ合う喜びを、つまりはお互いに向けている想いのかたちを。
そうして今日が初めての夜、すぐに果ててしまうのはもったいないと感じてしまうのも仕方ないだろう。
けれど彼女は尖らせたくちびるで指を押し返してきた、不敵な笑みを添えて。
「あら、単に体力が落ちてしまっただけじゃなくて?」
「…君こそ、私と同じだけ歳を重ねているじゃないか」
「女性に年齢の話を振るだなんて、ひどい人」
拗ねた様子を見せながらもその言葉は勝利に彩られていた。つまりは私の負け、完全な白旗だ。こうしてかわいらしいおねだりを混ぜられてしまえば加減するなんて選択肢を取れるわけもないということを、どうやら彼女は学んでいたらしい。そうでなくとも両腕を回されていては逃げようもないが。
くちびるを笑みで引き結んで、といて、ちろり、指先を舐めた、それが夜の始まりだとでも言うように。理性なんてとっくの昔に虚勢に成り果てていたものだから、崩すのは驚くほど簡単だった。
汗で潤った片足を引き上げる。
「泣いても止まれる自信はないからな、覚悟してくれ」
「─…あなたこそ。後悔したって離れてあげないんだから」
朝日はすぐそこだというのに、私たちの夜は始まったばかり。
(いつだって私は溺れさせられるんだ、君へと)
ED後にしれっと帰ってきてたらいい。
2015.12.19