marking time.
「もう、…いい加減にっ、」
非難が届くはずもないことくらい、いままでの経験でわかっているのに。反射的に洩れた声は思った以上に拒絶を含んではいなかった。彼も汲み取ってしまったようで、触れるくちびるは留まるところを知らない。
谷間の頂点に一つ、辿ってもう一つ。鎖骨から胸元にかけて、絵の具をこぼしてしまったみたいに紅が散っていた。一旦顔を離した夫は指で一つ一つ押さえて、ワン、ツー、わたしにも聞こえるように数えていく。
そうしてそれが年齢以上になっただろうか、指先はへその下で止まって。目の前の口角が悪戯に持ち上がっていく、その表情でさえ被虐心をくすぐる。
「これ以上つけないで…、着れなくなっちゃうわ」
「着なくていいじゃないか、私以外に見せるドレスなど」
わずかに見えた怒りはきっと明晩出会う誰も彼もに宛てているのだろうことは、想像に難くない。他の者が聞けば醜い独占欲だと疎まれそうなものを、けれどわたしには心地良い拘束だった。なによりも強い愛情に、言葉とは裏腹に惹かれていた、心が、身体が、求めてしまっていたから。
つい、と。片足を持ち上げられ、右の内腿に口づけを一つ。
「─…見えなければ、いいんだな」
語尾を上げて尋ねられたそれに拒否権などないことはもう、知っていた。
(いっそすべてに印をつけて、あなただけのわたしにして、)
結局は抵抗なんてできないママ。
2016.1.13