けれど私のすべては彼女に捧げた。

 強引にくちびるを奪ったはずなのに、その一つ一つにも律儀に返してくれる彼女がいとおしい。舌先を合わせて、絡めて。けれど揺さぶりに耐えかね離れていく。  足の上に乗せた彼女の腰に両手を据えて思いきり突き上げれば、かたちにならない声がこぼれた。吐息に混ざった甘さが鼻先をくすぐって、とけて。 「イデュナ」 「っ、な、に、」 「私は、しあわせだよ」  動きを止めて名を呼べば、散っていった息をかき集めながらたどたどしくも応えてくれる。そんな彼女の額に、まぶたに、そうして不満そうに寄せられた眉の間に口づけを落とした。  こうして交われることの喜びを、抱きしめているだけでこみ上げてくるぬくもりを。そのすべてを言葉でなど伝えられるはずもなくてただありふれたそれを口にしたのに、彼女は微笑みを乗せてくれた。わたしもですよ、と返してくれているのかそれとも、知っていますよと笑っているのか。どちらであったとしても嬉しいことに変わりはない。  お互い一滴たりとも血の繋がりがないはずであるのに、まったく別の人間であるはずなのにどうして、こうも同調し合うのだろう。触れ合った鼓動も、重なった呼吸も、まるで双子であるかのように。 「…君はきっと、私のために生まれてきてくれたのだろうな」  思わず洩れた言葉に、けれど妻はまた眉をひそめる。  とん、と。やけに強めの力を持って押されたかと思えば背中がシーツと鉢合わせて、覆い被さってきた彼女の人差し指があごをなぞっていく。 「──自惚れないで」  水面色の眸は波打たない。ただ凛と、目の前で見つめるしかない男だけを映し込んで、彼女は息を整える、頬に手を添えて。 「あなたのために生まれてきたんじゃないわ、わたしはわたしのために生まれてきたの。あなたと出逢いたいがために、存在しているの」  自分が会いたがっていたからだと、妻は言う、まだ見ぬ私に焦がれたからだと。初めて出逢った頃のあどけない少女の笑みを浮かべて、彼女は言う、あなたは、と。 「─…私もだよ、イデュナ、君と出逢うために、私はいるんだ」 「よろしい」  おどけたように額を合わせて。とけ合った吐息に再び甘さが含まれたのをきっかけに、くちびるを重ねた。 「…ということは、私の思うように動いてもいいのかな?」 「残念。わたしだって好きなようにしたいの」  更に求めようとしたくちびるを指で遮られて。上体を起こした彼女は微笑んだ、少女の面影を内に隠して。 (そうして私たちは今夜も、生まれた意味を確かめ合う)
 それぞれ自分が求めるままに出逢って、  2016.1.21