誘って、ゆらして、そうして、
逃げ場はない、どう足掻いても。
「動いてみなさい」
低音が背中を撫でていく。ぞわりと波打つのは嫌悪とは程遠いそれ。鳥肌が立つあの感覚にも似ていて、けれど酔いしれてしまいそうに甘美で。
いやいやと子供のように拒絶を示すのに、対して身体は言葉に素直に従ってしまいそう。いますぐにでも腕の力を抜いて、腰を下ろして、早く、はやく、
「ずっとこの状態でも、私は構わないが、」
果たして君が堪えられるだろうか、と。くちゅり、水音が鼓膜を揺さぶる。浅く入り込んだままのそれが、たしかな熱量を持ってわたしの身体を侵食していく。ともすればどこか遠い場所へ飛んでいきそうになる思考を慌ててかき集めた。
このまま重力に身を任せてしまえば楽になることはわかっている、ただ堕ちてしまえばいいだけだと知っている、それでもまだ、わたしのなけなしの理性が進路を絶っていた。欲に負ける程度の浅ましい女だと思われたくない。今更無駄な抵抗だと理解してはいても、意地を張っているだけなのだとしても、それだけは避けたかった。
だというのに彼は先をちらつかせる。翻弄するみたいに腰を動かして、けれど核心的なそれは与えてくれなくて。
もどかしさに急き立てられる、はやく、はやくと。
「抜いてしまおうか?」
「や、…っ」
力が、抜けた、なんて、ただの言い訳。本当は急かす色欲に理性を投げて、思いきり腰を下ろした、自分から。途端、もたらされた圧迫感に息が詰まる。酸素を求めて口を開けてみたけれどそれさえ許してもらえず、強引に振り向かされたかと思えばくちびるを塞がれた。苦しいくせに、もっととせがむ。舌を絡めて、息つく暇さえなくしてもっと、もっと、
「──はしたないな、君は」
くちびるが離れた一瞬、こぼされた言葉を求めていた、だなんて。
(わたしを、おとして)
本当はしゅもくぞりが書きたかったの。
2016.2.21