果たして主導権はどちらに。

「ん…っ、ふ、」  声、が、部屋を侵食していく。  顔を見られるのは恥ずかしいから、と。頬を染めそっぽを向いてしまったイデュナの言葉を尊重し、ならば後ろからと、背中に覆い被さり指を呑み込ませたものの、今度は私の辛抱が利かなくなってきたようだ。  彼女の汗ばんだ肌が、彼女の抑えた声が、彼女の荒い吐息が、私を急かしていく。堪えようと口元にあてた指の隙間からぽろぽろ洩れていくそれにどうしようもなくかき立てられていく。  もうとっくに色をとかしこんだ耳元にくちびるを近付ける。耳たぶを食むように、一つ、口づけを。びくりと震えた身体はそれだけで、指を喰い千切ろうとしてくる。 「指じゃ、足りなくなったかい?」 「そんな、こと、んぁあっ、」  紡ぎ終わるよりも先に指を沈めこむ、答えは分かりきっていたから。  二本を不規則に動かし、けれど核心的なそこへは触れないように。まどろっこしいとでも言うように腰が揺らめく、声が距離を詰めていく。 「ほら、なにがほしい」  ふ、と、動きを止めて。  ちゃんと自分で言ってごらん、と。努めてやさしく落とせば、いまにも泣き出しそうな表情で振り返った彼女がくちびるを噛みしめた。  堪えきれないのは本当は私の方であるのに。早く彼女に熱を伝えたいと、早く、彼女がほしい、と。  ずるさを押し隠し、指を引き抜く。吐息をこぼしたイデュナが切なさに震えた。鎖骨を上へ上へとくちびるで辿っていく。シーツをかたく握りしめた指が白さを増していく。 「─…くだ、さい」 「聞こえないよ、イデュナ」  ああ、なんて意地の悪い、 「──あなたを、ください…、」  そしてなんて、いとおしい人。  よく言えましたと、ご褒美にくちびるに私のそれを。片足を抱え上げれば、乱れた髪の奥で水面色の眸が妖しく光る。 「君が望んだことだ、途中でやめないからな」  ようやくまみえた表情にそう意地悪く微笑み、先ほどまで彼女の中にいた指を彼女自身の口に差し入れる。  これで抗議の声を上げられなくなった妻はけれど、期待に口の端を綻ばせた。 (あるいは踊らされているのは私の方だと、)
 どちらから、どちらとも、  2016.9.20