宵の口にまどろむ、

 まるで大きな子供みたい、なんて表現が本当にしっくり当てはまりそう。 「もう。駄々こねてないで早く寝てください」 「やだ」  やだ、だなんて。拒絶を覚え始めた娘みたいなことを言うものだから、かわいいと思う前に呆れの混ざったため息を吐き出してしまっていた。やだじゃないわよ、やだじゃ。溜まりに溜まった公務のせいで、もう三日もまともに眠っていないのだから、せめて仮眠だけでもと寝室まで運びこんだものの、ベッドの縁に腰かけたままいつまで経っても身体を横たえようとしない。こんなことならエルサの方がまだ寝付きがいいというのに。 「ねえあなた、お願いだから」 「君と一緒じゃなければいやなんだ」  どこか舌の足りていない口調でそんなことを言うものだから、ため息は止まるはずもなく。いつもは格好ばかり付けているくせに、どうしてこういう時ばかり甘えを前面に押し出してくるのだろう。そんな疑問はとりあえず端に置き、わがままな夫に倣い隣に腰を下ろす。これでいいでしょと振り仰げば、むすりと、珍しく頬をふくらませていて。 「ハグはくれないのか」 「ハグ、…って」 「ほら、早く」  まさか彼からそんな単語が出るとは思わず呆気に取られたものの、腕を広げぐいぐい近付いてくるものだから仕方なく、応えてあげることにした。いつもより体温が高く感じるのはそれだけ睡魔が迫っているということなのだろうか。  このまま身体を倒してしまえば、さすがの彼もシーツの誘惑に負けてくれるかもしれない。そんな考えの下、体重をかけてみるものの、わたしよりうんと大きな身体がそう簡単に思うままになってくれるはずもなくて。 「ん? もう眠ってしまうのかい、イデュナ」  さっきまでの甘えた様子はどこへやら、耳元にくちびるを寄せた彼が熱い吐息を投げつけてくる。触れるそれがどこか、夜を孕んでいるように感じて。だめよイデュナ、これでは彼のペースに呑まれてしまう。そう思いながらも、間近にあるやさしい彼の表情から目を逸らせるはずもなくて。 「─…眠いのは、あなたの方でしょ、アグナル」 「いつ私が眠いだなんて言ったかな」 「…うそつき」  文句を吐き出したくちびるをさっと塞がれる。熱を交わして、眸を閉じて。 (ねむい) (だから寝てくださいとあれほど) (君が寝かせてくれなかったんじゃないか) (…っ、ばか!アグナルのばか!)
 アグナルさんって徹夜続くと子供みたいになりそう。  2017.5.17