夜更けのお供はおまわりさん。
…わっ、まぶし…!
ちょっと。先に自転車のライト、消してもらえません?
もう…なんなのよ、いきなり…。
え、もしかして職質?そんな怪しい女に見える?
別に私、悪いことなんてしてないですよ。
ご覧のとおり、ただベンチで缶ビール飲んでるだけ。
この公園、お酒飲むの禁止されてないですよね?
だったら別に…。
…そんなの、あなたに関係ないでしょ。
誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだし…。
…って、おまわりさんの仕事、増やしちゃってるか。
ごめんなさい。これ飲み終わったら帰るから、今夜は見逃してちょうだい。
えっ、なに、急に隣座って…。
…もしかしておまわりさん、サボり?ビールもう一本あるけど、飲む?
ふふ、うそうそ。
そんなに必死にならなくてもいいのに。真面目な人なのねぇ。
ひとり寂しくビール飲んで、ぼんやりして…そうね、たしかに不審者かも。
でも本当に、ただ飲んでただけなんですよ。飲まなきゃやってられなくて。
これからは気を付けるから、だからもう…。
…ちょっと。近いんですけど。
話を聞くまで戻れません、って…。
なぁに、最近のおまわりさんは市民のお悩み相談も受けてるの?
でも別に、人に聞いてもらうような話じゃ…。
…分かった、分かりましたから、そんなに詰め寄らないで。
もう…本当に真面目な子…職務熱心すぎでしょ…。
別に大したことないの。ただ今日一日ツイてなかったってだけ。
企画したプロジェクトから外されたり、お気に入りのピアスなくしちゃったり…。
それにほら、左足のヒールも折れちゃって。
一つだけなら笑って済ませられたのよ。
でもこうもいろんなことが重なると…なんかもう、全部嫌になっちゃって。
ひとりむなしくビール飲んでたら、おまわりさんに見つかっちゃったってわけ。
…そんな心配そうな顔しないで。
別に死にたいとか、そういうんじゃないの。
ただ、うまくいかないなぁって落ち込んでただけ。
こんな時間まであくせく働いても評価はついてこないし、踏んだり蹴ったりだし…。
ほんと、なんのために頑張ってるんだろ、私…。
………あーあ、話しすぎちゃった!
ごめんなさい、くだらない話しちゃって。
おまわりさんだって、こんな愚痴聞くために仕事してるわけじゃないのにね。
ん、ん…っは、ふう…このビール、あんまり美味しくなかったなぁ…。
ねぇこれ、同じの買っちゃったの。よければ貰ってくれます?
…ふふ。冗談だってば。かわいい人ねぇ。
さぁてと…そろそろ帰ろうかな。
本当に通報されちゃったら困るし。
お時間取らせちゃってごめんなさい、おまわりさんももう…。
…え、送ってくれるの?
……いやいや、大丈夫だって。
これでも私、もういい大人だし。家だってほら、すぐそこなの。
…っ、だから、近いってば…。
…もう……そこまで言うなら、お願いしようかな。
おまわりさんに送ってもらえるなら、ちょっと安心だし。
って、どうしたの急に。しゃがみこんで…。
…あっ、あーそっか…ヒール、折れてるんだった…。
…もうここまで来たら、とことん甘えちゃってもいい、かな。
重いなんて文句、受け付けないからね?
んしょ、っと…。
わっ、…あなた、見かけによらず力持ちなのね…。
警察官ってやっぱり鍛えてるの?
…こんなに小さいのに…頼もしいのね。
ねぇ。朝にはお仕事、終わるの?
もしよければそのあと…私の家、来ない?
もっと話したいの、あなたと。
それとも業務外で私と喋るのは、嫌?
…ふふ。優しいのね、おまわりさん。
それじゃあ道筋、ちゃんと覚えてちょうだいね。
(なにもかもツイてない夜に、ひとつだけツイてること、見つけたかも)
どこの公園に行けば美女に出会えますか。
2025.8.15