どうか懺悔のひとときを、
(現代パロディ)
遠く、御囃子が響いている。
「見て見てエルサ、すっごいおっきい玉になってる!」
ゆるく顔を上げた妹の表情は、小さな炎にゆらめいてもなお輝いていた。ひそり、まるでその声で空気を震わすことを恐れているように小さな音はけれど私の耳によく届く。だって私が、妹の音を逃すはずがないもの。
すごいわね、と。言葉にする代わりに微笑んでみせた。私の声で玉が震えてしまっても申し訳ないから。
再び視線を落とした妹につられ、炎を眸に映す。かすかな火花を散らしながら自身の命を縮めているそれはなんて滑稽で、なんて儚くて。妹と同じ瞬間に灯したはずの私のものはもうとっくに燃え尽きてしまったというのに、ぱちぱちと、精一杯存在を主張して。
どおん、どおん。
太鼓の音がどんどん遠ざかっていく。私と妹、ふたりだけの世界に入り込むものはもはや目の前の彼女の指に握られた火花しかなくて。
「この火が落ちたら、」
ひそやかな声が、ふたりの間にこぼれる。
視線をすくい上げれば、同じく顔を上げていた妹がにこりと。わずかに影になっているのは灯火がもはや風に震わされているからかそれとも、
「──まっくらに、なっちゃうね」
灯りと同時に音も、消えた。
息を、呑み込まれる。圧し掛かってきた体重を支えきれなくて地面に腰を据えた。こんな時期だというのにひんやりと冷めた地面が唯一、現実に引き止めてくれているようで。
合わせ目から熱に浮かされた指が忍び込んでくる。そうしてわずかに距離を置いた薄紅のくちびるが、色づいた頬が、まだ火花をとかしこんだままの眸が。暗闇の中だというのに鮮明に映った。
「─…ごめんね、」
それは一体なにに対しての謝罪だというのか。せっかくの浴衣を汚してごめんねだとか、突然口づけてごめんねだとか。たくさん浮かぶけれどきっと、そうではなくて。
ゆらめいた眸を見ていたくなくて、紡ぎかけたくちびるを塞いだ。
「──ごめん、なさい」
同じ意味を落としていることに、気付かないまま。
(すきになって、ごめんなさい)
きっと同じ想いを抱いていることにも気付かないまま、
2016.7.26