ぬくもりはいつだってそこにあったの。
一家全員を絵画という形で切り取ってもらったのは、これが最初で最後だった。
アナを膝に乗せ微笑むお母様と、笑みに失敗したような不器用な表情を浮かべているお父様と、それから幼い日の私。まだ手袋に力も感情もなにもかもを閉じこめていなかったこの頃の私は、無邪気に頬を綻ばせていて。
そ、と。しあわせに煌めいていた頃の私たちに触れる。たとえば一人寝の夜に耐え切れなくなったとき、たとえば家族の顔を忘れてしまいそうになったとき、たとえば笑い方を思い出したいとき。なにかあればすぐ、この絵の前に来ては言葉をかけていた。
いまもそう、変わらずここにいてくれる彼と彼女たちに、もうすっかり浮かべ慣れた笑みを向けて。
「ねえ、お母様、お父様、アナ、そしてエルサ。聞いてほしいことがあるの」
今朝起きると同時に、雪が降ってきた。魔法で生み出したのではない、自然のそれはここ、アレンデールで、この冬はじめて降った雪。
生まれたときからずっと、雪は私とともにあった。感情に敏感に反応してくれるし、なにかあればすぐ顔を覗かせてくる。それに付随する冷たさに、みんなは身体を震わし両手を擦ったけれど、冷気を感じない私にとっては関係のないものだった。
だというのに今朝は両手を重ね合わせ、あたためた息を吹きかけ、少し寒いわ、なんて。呟いたのは、無意識。
「寒い、なんて、いままで感じたこともなかったのに」
「──エルサ!」
小さな自分を撫でているところへ、元気に名を呼ぶ声が飛び込んでくる。
振り返らなくたってわかる、だってこの声の主は、私に寒さを教えてくれた人だから。ぬくもりを与えてくれたおかげで、寒いと感じることができるようになったから。
「こんなところにいた! ね、初雪だよ、雪だるまつくりに行こう!」
ぎゅ、と。あたたかさが手を包み込む。勢い込んで引っ張ってくる妹に合わせ身体が傾ぐ。もうアナったら、なんて、言葉に反して浮かぶのは笑顔ばかり。絵画の中の家族に、またねと、しばしの別れを告げて。
はじめて感じた寒さは、好き。だって寒ければこうして、妹の体温に安堵することができるから。寒いわねと、同じ感情を共有することができるから。
「そうね、雪だるま、つくりましょうか」
首筋にもう片方の手を走らせ、軽く振る。呼応するように表出した雪の結晶がすぐ、やわらかな毛皮に変化し首元を彩る。
アナが駆け出す、鼻の頭を真っ赤に染めて。私も同じ風に染めているのだろうかと。
「─…今日は少し、寒いわね、アナ」
「でもエルサはとてもあたたかいわ!」
(いまの私たちは、しあわせだったあの絵と同じ表情を浮かべているのでしょうね)
Olaf's Frozen Adventure 楽しみすぎる。
2017.6.14