When we're together.
妹はいつも脈絡もなく提案をする。
「パーティーをしましょ、エルサ!」
「…ええ、と。どういう主旨で?」
「楽しい気持ちになりたいときに主旨なんている?」
パーティーはその場にいるだけで楽しくなるでしょ、なんて。なんともアナらしい理由。きっと最近公務に追われてばかりの私を気遣ってのことなのだろう。
アナの手が私の指を取り、ペンから引きはがす。こうなればもうなにを言おうと今日はペンを握らせてもらえないことは、これまでの経験から明らかだった。苦笑をひとつ、促されるまま腰を上げる。立ち上がるのも何時間ぶりのことか。
「でもあたし、パーティーがどんなものか、まだいまいちわからないのよね」
「前のパーティーは途中で終わってしまったものね」
前の、とはつまり私の戴冠を祝したパーティーのこと。お互いの言葉に顔を見合わせ、それからふたりしてくすくすと口元をゆるめる。あの最悪な夜を─もちろん胸の痛みだって蘇るけれど─懐かしさとともに思い出せるようになったのは、たしかな成長なのだろう、きっと。
「んーとね、」
あごに指を当て思案するアナ。そうして思いついたわ、というようにどこからか取り出したのはとりどりの紙に包まれたお菓子。中身はもちろん、
「なにはともあれチョコレートはたくさんほしいわね」
ひとつを私に手渡し、もうひとつは包みを開け自身の口に放りこむ。立ち食いなんて行儀が悪いと思いながらもつられてつい含んでみれば途端、いっぱいに広がる魅惑的な香り。そのおいしさに思わず手を差し出せば、察したアナが違う色の包みにくるまれたチョコレートを乗せてくれた。そんな妹の舌ももう新しい味を転がしている。包みを開いてもうひとつ、今度はいちご味。
「それから素敵な音楽も必要ね」
ころころと飴玉みたいにチョコレートを転がしながら、再び私の手を取ったアナは腕を引いた勢いのままくるり、優雅に立ち位置を入れ替えて。
「だって音楽がなくちゃ踊れないもの」
アナが右足を踏み出せば、私が左足をつと下げて、ワンツースリー、ワンツースリー、足が刻むは馴染んだワルツ、まるで部屋いっぱいに音楽が満ちるみたいに足音を重ねて。どちらからともなく指を絡め直し、妹の腰に腕を回して、鼻先がふれる、少し前までは恐れてさえいた距離がいまはいとおしい。
「ねえエルサ」
「なぁに、アナ」
「ふたりだけでもいいわね、パーティー」
リズムはそのままに、弾んだ呼吸でアナが言う、あたしたちだけでパーティーしましょ、だなんて。ふたり揃ってくるくるターン、勢い余って私の方へ倒れこんできたアナの身体をなんとか受け止め、そうしてまた笑った。
私たちだけでよかった、私たちふたりだけしかいらなかった。もちろんたくさんの人が集まったパーティーも素敵なのだろうけれど、それでもいまは、チョコレートと音楽とダンスとアナがいてくれれば、私はそれでよかった。それだけでこんなにも心が躍るのだから、こんなにも愛があふれてくるのだから。
「そうね、アナ、」
口元に運んだ指先にそ、とくちづけを送る。うふふ、と妹が照れ隠しをこめてくしゃりと相好を崩す。
『──あなたがいれば、それだけで』
声とチョコレート味の吐息が、ふたつ。
(それだけで、私はしあわせなの)
あなたがいてくれれば、それでいいの。
2019.1.3