くらやみにとける、

(現代パロディ)  どんなものにも終わりは訪れる。それはあたしたちにも、そして手にしている花火にも当てはまることだ。  ぱちぱち、小さなその身を震わせて、鼓膜にかすかな音を置き去りにしていく。それさえも一つ、一つと零れ落ちていってしまって。  たとえばこのともし火が消えてしまったなら。現れるのは静寂と、暗闇と、それから、 「こわいの」  ぽつり、火花以外の音に反応した身体が過剰に跳ねた。顔を上げるよりも早く、肩と肩が触れ合う。  火玉ばかりを見つめていたせいか、目の前がぱちぱちと爆ぜるような感覚にめまいがしそうだ。ふらりと揺れそうになるのを察してくれたのか、それとも別の意味がこめられているのか。つながれた手がいつもより冷たい気がした。 「こわいの、アナ」  言葉尻を上げて、もう一度。それはあたしに尋ねるというよりも、姉さん自身に問いかけているようだった。  いいえこわくないわ、と。それがなににかかっているのかわからないふりをして、言葉を返した。 「だって隣に姉さんがいるんだもの。こわいはずないわ」 「…そう」  姉さんの火玉が落ちる。たったそれだけで、周囲は黒をとかし込んだみたいに闇を深くした。知らず握っている手に力をこめる。姉さんの指はぬくもりを持たない。  たとえばこのともし火が消えてしまったなら。隣にいるはずの姉さんが、指を重ねているはずのエルサが、消えてしまう気がして。 「ね、エルサ」  ぱちぱち、線香花火が光を増す。最後のあがきとばかり、網膜に残像を映していく。終わりがやって来てしまう前に、どうかこの言葉を。 「すきよ、エルサ」  ぷるぷると震えていたともし火は、やがて重力に身を委ねてしまった。  暗闇と同化していくその瞬間、こぼされた返事は、重なったくちびるに呑み込まれた。 (わたしもよ、アナ)
 花火してるだけ。  2014.7.13