たとえば心までしばれたなら、
うっすらと欲をとかし込んだ薄氷色の眸がすき。
「触っちゃだめよ」
たった一言。紐で縛りつけているわけでもないのに、妹の動きが止まる。伸ばされかけていた手が声に反応してびくりと震え、中空で宛てもなく揺らしたのちに元いた場所へと帰っていった。なんて素直な子。本当は触れたくてたまらないくせに。
薄氷色がはらはらと水を湛えていく。
本当は触れて、抱きしめて、自分の手で暴いていきたいと思っているくせに。彼女はなによりも私を、私の想いを大切にしてくれている。たとえばずっとおあずけしていたとしても、指一本出すこともないまま私の次の言葉を待つのだろう。我慢ばかり覚えてしまったのだ、この子は。
それを利用している私はなんて罪深いのか。自覚はしていても、罪悪感に囚われていても、それでもいいわよなんて言葉をかけることはしない。まだ、まだ、もっと貪欲に求めてくれるまで。
「ね、アナ」
まずはきつく結わえていた髪を解いて。拘束から抜け出した髪が背中に落ちていった。指先を辿るように、妹の視線が追いかけてくる。それにさえ隠しきれない熱がこもっているように、視線が触れる先から火照っていく。ゆっくりとさらした首筋が色づいていることくらい、確認しなくたってわかっていた。
膝を突いて、さっきからくちびるを噛みしめている妹に動物みたいににじり寄る。しずくをこぼした彼女はそれでもやっぱり手を出すことなく、姉さん、と。妹にだけ与えられた名称をそっと落としていく。ただそれだけで、ずくりと心がうずいた。
「まだ、だめ…?」
白くなってしまうほど手を握りしめて、見上げてくる様は捨てられた子犬のようでも、飢えた狼のようでもあった。どちらにしたってえさを求めていることに変わりはないのだろうけれど。
食べ物を欲しているかわいらしい獣にまたがり、両腕を首に回せば、途端に期待で顔が輝く。けれども距離を詰めてきたくちびるに人差し指を当て、進行を押し留めれば、薄氷色がまたたきを一つ。
「──だめ」
もっともっと焦らして、私のこと以外考えられないようになってくれたらと。奪ったくちびると一緒に想いを閉じ込めた。
(私のこころなんてもうとっくに、)
誘い受けのはずがそんなに誘えなかった。
2014.7.19