やさしい夢をあげる。

 毛布とはまた違った重みに目が覚めた。  寝起きのせいか不鮮明な視界に映るストロベリーブロンドに疑問符を一つ。カーテンの隙間から差し込む陽を受けてきらめくその色を持つ者はただ一人しか思い浮かばないし、そもそも私の腕を枕に寝息を立てる人なんて、このかわいらしい妹以外いるはずもなかった。  それにしてもいつの間に潜り込んできたのだろうか。まだうまく働いてくれない頭を無理やり回転させて記憶を辿る。  昨夜はアナの部屋で、遅くまで話しこんでいた。行きたい場所があるの、食べたいチョコレートがあるの、見てみたいものがあるの──そのどれもに、エルサと、という主語がつくのだけれど。  妹の語る未来は明るいものばかりで、まだ実行に移していないというのに心が弾む。きっと小さな子供みたいに顔をきらきらと輝かせた妹の隣にいられるだけで、私は舞い上がりそうなくらい嬉しいのだから。  空も完全に寝静まった時間帯になってようやく、そろそろ部屋に戻るわねとアナに別れを告げて。そういえば扉が閉じ終わるまで見送ってくれていたその表情が一瞬、泣き出す前みたいに歪んだように見えたけど、あれは気のせいではなかったのね。  私の左腕に頭を乗せて、すがるように抱き付いている妹の髪をすく。やわらかな髪はするすると指を抜けて、あとには甘やかな香りばかり残していった。  その髪先に口づけを一つ、逃れるように落ちていってしまって。 「─…えるさ」 「ん。ごめんなさい、起こしちゃったかしら」  舌足らずに呼ばれた名前に応えれば、首筋に顔をうずめたアナはふるふると首を振った。きゅ、と。背中に回した腕に力をこめて。 「もうすこし、このまま」  ひとりごとみたいに小さくこぼされたお願いを却下できる術も理由もない私はそ、と。アナの髪に手を差し入れて、引き寄せた勢いのまま額に口づけを落とした。  頬に残った雫の跡なんて、見えないふりをして。 (どうか私の腕の中ではしあわせでいて)
 アナちゃんかわいいキャンペーン第一弾。  2014.7.20