あなたのねつをちょうだい。
「あーつーいー…」
執務机にだらりと両腕を伸ばして茹だった頬をぺとりとくっつける。だけど求めた涼しさが返ってくることはなくて、じわりじわりと無情にも焼かれていくだけ。
このままだとあたし焼きアナになっちゃうんじゃないかしら。こんがり上手に焼けちゃって、誰かにおいしくいただかれちゃうんじゃないかしら。あ、どうせいただかれるならエルサに食べてもらいたいな、だなんて。そんなことを真面目に考えてしまうくらいには頭はとろけてるみたいで。
「エルサー…」
「だめです」
「まだあたしなにも言ってない」
「じゃあ言ってごらんなさい」
「あついから、」
「却下」
なによりも冷たいエルサの言葉が、形になることのなかったあたしのおねがいを切り落としていく。妹の切実な頼みを最後まで聞くことなく拒絶するなんて。ひどいわかなしいってきっとこういう時に使うのね。
途切れることのない書類を繰る音にため息を一つ、それでも諦めきれなくてうーだとかあーだとか意味を成さない単語を落としていく。
こんなときエルサは決まって、自然に抗ってはだめよ、だなんて言うけど、あついものはあついの、仕方がないじゃない。
「あついことも仕方がないわよ」
「まだあたしなにも言ってない」
「口から洩れてるわよ、全部」
なんと。思っていることが全部出ちゃってるなんて。これもあつさのせいね、きっと。そんな八つ当たりにも近い責任転嫁をしてもあつさが和らいでくれるはずはもちろんなくて。
「あーつーいー…」
同じ台詞を繰り返すばかりのあたしについに呆れたのか、ふう、と。あたしのものではない長い長いため息がこぼれた。
「アナ」
「なあにけちんぼ姉さん」
「拗ねないの」
「拗ねてない。あついだけ」
「もう。…ちょっと顔を上げて」
言葉と裏腹にぷくうと頬をふくらませれば、他称けちんぼな姉さんからの小さなおねがい。声色がわずかに変わったそれに、重たい頭を上げるのも面倒くさいけど反応しないわけにはいかない。
あごを机につけて視線を上げれば、氷色の眸が女王から姉のそれへと移っていた。
ゆるり、細くてまっしろな指が伸びてきて、そのままあたしの両頬を包み込む。少しは涼めるかしら、だなんて。ひんやりとした感触が頬から耳たぶへ、首筋へと移動していって。
「あら、どうして体温が上がってるの」
本当にわからないとでも言いたげに首を傾げる姉さんに返す言葉が見つからなくて、あたしはただただ、熱を持っていく頬を自覚するばかりだった。
(余計にあつくなっちゃったじゃないの、もう)
アナちゃんかわいいかわいいキャンペーン第二弾。
2014.8.4