どうせあなたにかなわない。
視線を交わしてもいいのか、微笑みを返してもいいのか、その細い身体に触れてもいいのか。私が手を伸ばしたところできっと悪い顔一つせず、それどころかぱしりと掴んで指を重ねてくるのだろうけれど。
妹の体温を思い出しただけで頬が熱を持つ。
見咎められたくなくて顔を逸らしたのにその動作を見止められていたみたいで、どうしたの、と身を屈めて覗き込んできた。その口元を見るにおそらく、私がどうして視線を落としたのかわかっているはずなのに。いじわるな妹は、どうしたのよと同じ言葉を繰り返すばかりで助け舟を出してくれようとはしない。
どうしてこんなにいたずらな性格になってしまったのか、どこで育て方を間違えてしまったというの、なんて思うけれど、ずっと関係を持とうとしなかった私が言えたことではなかった。
ふ、と。息をはいた少し先、吐息が交わらない位置にあるアナの眉がわずかに寄った。
「ねえ、エルサ、」
呼びかける声はどこまでもやさしくて。扉の外から聴こえていたそれとまったく同じで。
折れてしまいそうなほど細い指がゆるり、私の眉間にあてられて、ごしごしとこすられる。あまりの勢いに思わずのけ反れば、その分だけアナが距離を詰めてきた。背けてしまいたいのに、眉間を離れた手が今度は両頬を包み込むように触れてきて、どうにも逃れることができない。
薄氷色の眸が映した私は困ったように眉を寄せていて。
「ほら。困り眉」
わかりきったそれを指摘されてしまえば忘れかけていた熱が再び帰ってきてしまう。我知らず焦がれていたぬくもりが、眸の色が、私だけに与えられているのだから。感じていた罪悪感なんて都合良くもどこかへ消えてしまっていて、ただただ色に魅入られるばかり。
ようやく眉間の緊張が解けたのか、妹はふわり、笑う。太陽が輝くみたいに明るい、私の大好きな笑顔を。
ね、エルサ。
声が落ちる、私だけのために。
「ぎゅーって、抱きしめて」
かわいらしく上げられた語尾は私の望みをそのまま表していて。この子は読心術までも心得ているのだろうか、そんなことを真面目に考えてしまうくらい。
あたしが読めるのは姉さんの心だけよ、だなんて。やっぱり想いを感じ取ってしまうらしい妹はまぶたを閉じてにひひと笑った。
「それで、答えは」
口角を上げる例の笑み。
いじわるな妹をどうにか打ち負かしたくて思いきり首元に抱きついてみたけれど、上がっていく体温に無駄な足掻きだと悟るまできっとあと、少し。
(ああもう、わかっているくせに)
ハグの日ということで。
2014.8.10