あなたなしではいられない。

「アナなしでも眠れるんだから!」  始まりはたしかその言葉だった気がする。  目覚めたとき決まってアナを抱きしめていることを指摘されて、姉さんはあたしがいないとだめなのね、なんてからかわれてつい、のどから文句が飛び出していた。それを受けた妹は怒るでもなくただ一言そう、と。  隠そうともしない笑みは、姉さんには無理ねと言っているみたいだから、枕を抱えて自室に戻り、ベッドに寝転び早数時間。いつもは起きているはずの空も成りを潜めてしまっているから、部屋はカーテンを引いたように真っ暗、眠るには好条件なはずなのに。  窓辺に視線を送るのは三回目、羊を数えるのは五回目だっただろうか。  いっそアナを数えていた方が眠れるのかもしれないと、固くまぶたを閉じる。アナが一人、アナが二人、アナが三人、私に笑いかけてきて、早く部屋においでよ、…ってだめ、逆効果だわ。そんなこと、数える前からわかっていたけれど。  寝返りを打っても、隣にいるはずの妹の姿が見えなくてふいに、目頭が熱を持つ。  十三年間ずっとひとりで眠っていたはずなのに、広いベッドには慣れていたはずなのに。さみしがりやな私はもう、ぬくもりを覚えてしまったみたい。隣に誰かがいてくれる夜を当たり前に受け止めていたみたい。  毛布を取り去り素足のまま、それでも枕はしっかり携え、目指すは妹の部屋。姉としての意地もプライドもどうだっていい、だって私はもう、アナなしではいられないんだもの。  扉をそっと開ければ、同じように枕を抱えた妹がベッドにぽつり、ごめんね、だなんて苦笑を一つ。 「あたしも、エルサがいないとだめみたい」 (そうして今夜も、あたたかな夜を)
 ふたり一緒でないとねむれない。  2014.8.24