やさしい夢のそのあとに。
「夢をみてたの」
まぶたを開けてふわあとかわいらしい欠伸を一つ、珍しく早く目覚めた妹は、寝言ともひとりごとともつかない言葉を落とした。
どんな夢だったかしら、なんて。記憶をたぐり寄せるように、薄氷色の眸をそっと隠す。
「…そういえば、」
「ん」
「夢。みていたわ、私も」
夢とも現ともつかないそれをたしかに私はみていた、その事実は思い出せるのに、肝心の内容がぽっかりと抜け落ちてしまっている。なぜだか思い出さないといけない気がして、妹の真似をして視界を閉ざす。
薄暗闇の中ぼんやりと浮かんだのは、髪に触れたやさしいぬくもりと、泣き出してしまいそうな眸と、
「ねえ、エルサ」
「ん」
「もしかして同じ夢をみてたんじゃないかな、あたしたち」
誰かが眠っている私たちの枕元にやって来たこと、窺うようにじっと見つめられていたこと。答え合わせをしてみれば、疑いようもなく酷似していた。
ふたりしてしばらく顔を見合わせて、ぱちり、またたきを一つ。くしゃりと、先に表情を崩したのはアナだった。
「ね。あたし、誰だかわかっちゃった」
涙をこぼしてしまいそうな、けれど懸命に笑おうとしているその表情はやっぱり似ていて、
「私もよ、アナ」
ぼんやりと視界をにじませた私もきっと、その面影を残しているのだろう、薄氷色に私を収めた妹の眸からつと雫が流れて落ちた。
姿をみていなくたって、もうみることができなくたって、そこにはたしかな存在があって。私と、それから妹の中に、消えることなく残っていて。
「そんなに心配なのかな、あたしたちのこと」
「心配性だからかも、あのふたり」
ベッドに放り出していた指を、どちらからともなく繋ぐ。夢で得たぬくもりを確かめ合うように。
共有したものはたしかに、お父様とお母様がくれたあたたかさだった。
(みえなくても、ふれられなくても、そばにいてくれていたのね、ずっと)
夢のあとに残った跡をたどる朝。
2014.9.23