いろにおぼれる、

 舌の這う感触が妙に生々しい。  くちびるをぐるり一周したそれは、やがて迷うことなく歯を割って強引に侵入してきた。もしかしたらいまにも噛み切ってしまうかもしれないのに、そんな考えは微塵も浮かんでないみたいに。もちろん、口を閉ざすことはできないし、するわけもないけど。  いつの間にこんなに上達したのか、なんて思う暇もなく、気付けば酸素とともに自然と絡め取られていた。あがる水音が内側から耳朶を犯して、世界を段々とぼやけさせていく、まるで深い水底に沈んでいくみたいに。  閉じたまぶたの裏でちかちかと光がまたたき始めたころ、貪るように喰い付いてきていたくちびるとの距離がようやく空いた。急に入りこんできた新鮮な空気に、思わず咳きこむ。 「エル、サ…どうして、」 「どうして、なんて」  かつり、ヒールが硬く床を打てば、元々ゼロだった距離がさらに縮まった。  重なった身体から、痛いくらいに跳ねている鼓動が伝わってしまうんじゃないかと思えばそれだけで、あたしの胸は音を早めていく。 「決まっているでしょ」  あごをゆるり、持ち上げられてすぐ、出会った氷色の眸に射抜かれた。あたしをまっすぐ映したそれは、凍った湖みたいに凪いでいて。  普段とは違う姉さんの姿を目の当たりにしても、不思議とこわいとは思わなかった。いつも受け身で、拒絶されることを恐れていたエルサがあたしを、他の誰でもなくあたしを求めてくれている、ただそれだけのことでこんなにも胸が震える。 「──あなたをあいしているからよ、アナ」  期待に洩れた息ごと、呑み込まれた。 (そうしてあなたいろにそめあげて)
 ちゅっちゅしてるだけ。  2014.9.25