彼女の上手な甘え方。
あたしだってたまにはわがまま言いたい時もあるの。
「たまには、じゃなくて、毎日、でしょう」
口にしてないはずなのに、手厳しい姉はなぜだか呆れた調子でツッコミを入れてくるけど気にしない。あたしだってこれでも我慢してるのだ。
「これでも、って。やっぱり自覚はあるのね」
そりゃあ自覚がないと言えば嘘になる。いつも侍女の制止も聞かず執務室に半ば強引に乗り込んでるし、いまだって部屋に帰ってちょうだいという言葉も右から左で、本来ならばエルサが座るはずの椅子にふんぞり返っているんだから、まあ、邪魔してるって自覚は、ある。
「邪魔なんて言わないけれど、そうね、頻度を少なくしてほしいわ」
だからあたしは口にしてないのに、
「全部言っているわよ、自分で」
なんてこと。それじゃあポーカーフェイスの意味がないじゃない。
「ついでに言えばポーカーフェイスも保ててないけれど」
話を戻そう。
「普通に話してちょうだい」
あたしだって、ただ闇雲にわがまま言ってるわけじゃない。こうして邪魔でもしないと真面目すぎる我が姉はお空が寝てしまってもベッドに潜ろうとしないからだ。むやみやたらでないという証拠に、朝早くから仕事を始めるところに押し入ったことはない。
「早くに起きた試しがあったかしら、あなた」
とにかく、毎日行われているこの執務室突入作戦にはエルサを慮ってのことなのだ。
「毎日って認めたわね」
仕方ない。認めよう。
「どうしてそう偉そうなのよ」
ところで今日ここに来た目的はなんだったか。
あごに手を当てふと思案すれば、ため息をついたエルサは部屋の奥を指し示す。
「お茶。するんでしょう? 意気揚々とお菓子をたくさん持ってきたじゃないの、あなた」
視線を移せば言われた通り、色とりどりの紙に包まれたお菓子が盆にこれでもかと載っていてようやく当初の目的を思い出す。
そうよ、朝ごはんどころか昼ごはんさえ摂らなかった女王陛下の妹が頭を悩ませた結果がお茶会作戦だったのだ。ランチにしよう、よりも、ティータイムよ、なんて誘った方が乗ってくれるのだ、この姉は。
「…三十分だけよ」
降参とばかりに大きなため息を一つ、返事も聞かずに紅茶の用意をし始めたあたしの向かい側に腰を下ろした。
あたしは知っている。三十分と言いつつも結局一時間ばかり付き合ってくれることを。女王の束の間の休息のため、というのは建前で──もちろん心配してはいるんだけどそれよりも、あたしがエルサと一緒にいたいというただそれだけのわがままを理解していることを。あたしがもっとたくさんわがままが言えるように知らないふりをしていることを。
「…ねえ、アナ」
「んー?」
照れ隠しなのか、カップを口元に当てて優雅にお茶を楽しんでるように見せてるけど全然隠れてない。そんな言葉の続きを予測していながらもしらを切ったあたしにじろり、ふてくされた氷色の眸が向けられた。
「全部言っているわよ、自分で」
そう言いながらもお菓子に手を伸ばす姉に、わがままをきいてくれる姉に、誰よりもあたしを甘やかしてくれる姉に、とびっきりの笑顔を一つ。
「知ってる」
(あたしがわがままなことも、姉さんがあたしをだいすきなことも全部、ね)
アナちゃんかわいいかわいいキャンペーンリベンジ。
2014.11.23