ふたりぼっちのよる。

 ぬくもりに引き上げられた。 「─…アナ、」  呼びかけに応える声はなくて、行き場をなくした音は暗闇にとける。まだ夜に慣れていない目は求めた姿を捉えてはくれなくて、カーテンの隙間から差し込む申し訳程度の月明かりでは全体を把握することはできなかった。  またたきを一つ、二つ、 「ん、…エルサ?」  耳にやさしい音はすぐ隣、視線を移せば毛布がもぞもぞと動いて、見慣れたストロベリーブロンドが光を反射した。まぶしいそれにつと、目をすがめる。  網膜に焼き付く色は妹がたしかにそこに、私のすぐ傍にいることを証明してくれていて。 「ごめんなさい、起こしてしまったかしら」 「ううん、起きてた」 「うそばっかり」  目をこすりながらふわあと欠伸をするなんとも正直者な妹は上体を起こし、またたきを一つ、二つ、三つ目でようやく眠たそうな眸を向けてきた。どこまでも透き通った薄氷色が映した私は、こんな夜の中だというのにとてもはっきりとしていて。  横に首を振ったのは妹。 「なにかあったの」  語尾を上げて尋ねる口調はどこか確信さえ含んでいて。その言葉に、今度は私が首を動かす番だった。  なんでもないの、と。妹と違ってうそつきな私はそう落とすけれど、そんなことあるはずないわとまた、真理を突いてきて。 「…少し、ね。不安になっただけ」 「どうして」 「あなたがいるかどうか、私の傍にいてくれているかどうか、─…私が、ひとりぼっちじゃないか、って」  痛いところを突かれてしまえば私の固めたうそは簡単にはがれていってしまって。そうして現れたのはどうしようもないほど弱い私でしかなかった。  昔みたいにまた一緒にいてくれるようになった妹が、誰よりもいとおしい妹がどこかへ行ってしまったのではないか、ひとり膝を抱えていたあの頃に戻ってしまったのではないか――そんなことを考えては背筋に嫌な汗が伝う。ひとりぼっちには慣れていたはずなのに、感情を隠す術を知っているはずなのに。妹に愛を教えてもらった私は孤独を忘れてしまっていた。  吐き出してしまったはいいものの反応が怖くて俯いていた私の手にそ、と。あたたかい体温が乗せられる。あるいは熱を持たない私の手で冷やしてしまうのでは、なんて恐怖に駆られても、ぎゅ、と握りこんできた手は逃れることを許してくれそうにはなかった。  顔を上げればいつもの薄氷色と鉢合わせる。ゆるり、笑みのかたちに細められたそれはいつかのあの日にもらった母親の表情にも似ていて。 「あたしはいるわ。ここに。姉さんの隣に」  いなくなったりしない、ひとりぼっちになんてさせないから、だからどうか、 「どうか、おそれないで」  ひとりぼっちだなんて言わないで。  最後の言葉は抱きしめられた隙に耳元へ、自分自身にも言い聞かせているようにも聞こえて。  伝播してくるたしかな熱に身を任せてそ、と。視界を閉ざせばもう、妹の息遣いと、ぬくもりと、心臓の音しか感じなくて。 「そうね、…私は、ひとりじゃないのね」  口にしてみればそれはなんだかとても当たり前のような気がした。  そうよ、その通りよ、だなんて頷く妹に気付かれないように笑みを一つ、ようやく抱きしめ返した腕にもたしかにぬくもりが移っている気がした。 「ねえ、アナ、」 (そばにいてくれてありがとう)
 FROZEN一周年おめでとうございます。  2014.11.28