いつかのあなたへ、
昔の夢を見た。
そう言ってしまえばなんだか幼いころのしあわせだった日々を思い返すのかもしれないけれど、そうではない。夢の中の小さな私は扉の外にばかり想いを馳せて、流せもしない涙をのどに押し込めていた。
こんこん、背にした扉が叩かれる、独特のメロディーに乗せて紡がれる歌声に成長を感じて。返事をしようと口を開いたところでいつも、現実が返ってくる。
上体を起こす動きに合わせて毛布が流れていく、それと同時に、もぐっていたらしい妹のかわいらしい寝顔が現れた。
冷たい空気に晒された肌を守るように身体を丸める姿はまるで小さな子供みたい。私の記憶にある妹に比べて大分大きくなったと思っていたのだけれど、どうやら少しだけ勘違いだったようね。
解かれた髪にそ、と。触れてみれば、ストロベリーブロンドのそれは指に絡むことなく通り過ぎていく。思い出したばかりのぎこちない撫で方にけれどふにゃりと頬をゆるめてくれるものだから、私はやっぱりこの子の姉なのだと、至極当然なことを一つ、やわらかな頬に手のひらを当てれば猫みたいにすり寄ってきた。
ふにふにとしばらく遊んだ後に指を離して。心地よいぬくもりを名残惜しく感じつつもベッドからはい出れば、冬の寒さが容赦なく肌を刺す。
寒さを感じないはずの私がこうして身を震わせられるようになったのも、それまで身体をあたためてくれていた妹のおかげだ。
カーテンを勢いよく開ければ、まばゆいばかりの光が射し込んでくる。自分で作り上げたあの城から見えた光よりももっと輝いたそれが。
昨日から降っていた雪は衰えを見せることなく、太陽を反射している。
この光を、ぬくもりを、言葉をくれた妹へ。頑なに閉ざし続けていた扉を叩いてくれた、あの日の妹へ。そしていまベッドですやすやとしあわせそうに眠っている彼女へ、私がかける言葉は一つ。
小さな身体めがけてダイブすれば、ぐえ、とかわいらしくない声が上がる。ゆるり、覗いた薄氷色に笑みをこぼして。
「雪だるま、つくろう!」
(私が送る、魔法の言葉)
年納め姉妹。
2014.12.31