けものにおぼれる。

 引きつった声はあたしのものじゃないようにこぼれた。 「え、える、さぁ…っ」  言葉を紡ぎたいのに、欲望を固めて投げたいのに、悪戯に微笑む姉は名前を呼ぶことさえ許してくれない。  言いたいことがあるならちゃんと言ってちょうだい、だなんて。それまで入口でくちゅくちゅと鳥肌を立たせるみたいにほんの僅か触れるだけだった指を、あたしが口を開こうとするたび沈めて音をかき消してしまうくせに。そんな非難を浴びせたくったって、どろどろにとけてきた脳みそはもう単語を組み立てることさえ難しくなってきていた。  じわりじわりと這い上がってくる快感に息を乱しているあたしを見下ろして、姉さんはくすくすと頬をゆるめる。 「まだ第一関節しか入っていないのだけど」  ゆるり、円を描かれる感覚。  ナカの浅いところを撫でられた、ただそれだけなのに、視界がホワイトアウトしてしまいそう。そのまま意識を手放してしまいたいのに、寸前で引き抜かれてしまう。  エルサの指を追いかけるみたいに声が洩れる。砂糖をまぶした、余裕のない音が。 「え、るさ…えるさ…」 「なあに? 甘えんぼアナ」  笑みと一緒にこぼされた名前にきゅう、と。切なさに震えた。  小さな子をあやすみたいに抱きしめられて、ぽんぽんと背中を撫でられて。だけどそこに幼いころのような純粋な心が一つも混ざってないことくらい、熱の種類を辿れば簡単にわかる。  足りない、これだけじゃ全然足りないの。もっときつく抱きしめて、耳元で名前を呼んで、熱い息を呑み込んで、そうしてどうか姉さんの手で、 「ねえ、アナ」  ちゃんと言えたらあげるわよ、 「ご褒美」 「ぁ…、」  はしたないほど素直に反応したあたしに向けられたのは、昔とは違う笑み。いつの間にか大人になってしまった姉さんが、あたしに、あたしだけにくれる、けもののかお。  たべられたい、と、思った。 「ねえ、さん、」  力をなくした腕を精一杯持ち上げてエルサの頬から下に、下になぞっていく。冷静な言葉とは裏腹に汗の跡を残している肌がたまらなくいとおしくて、いますぐ重ねてほしくて。 「ねえさん、を、もっと、ください」 「…いい子ね、アナ」  ぞくりと背筋に走った音に、身体が歓喜の声を上げた。 (どうかあたしに、あなたのすべてを)
 たまには攻め陛下でも。  2015.1.27