It's mine!
ついこの間まであたしが口にしていたフレーズを、まさかエルサの口から聞くことになるなんて。
「アナ! 扉開けて!」
「Go away, エルサ!」
「どうして!? どうして出てこないの!」
「どうして、じゃないわよ!」
ドアを開けようとしてくるエルサに対抗して全力でノブを引っ張る。力では断然あたしの方が勝っているはずなのに、どういうわけか押し負けようとしていた。鍵を閉めてしまえばこっちのものだけど、ほんの少し隙間が空いた状態から動かすことができない。終いには細い手が侵入してこじ開けようとしてくるものだから本当、質が悪いったらないわ。
壁に足をつけ背を反らし、思い切り引きながら叫ぶ。
「あたしに、恋人なんて、いません!」
そもそもの発端はなんだっただろう、なんて考えても、一つしか思い当たらない。
ちょっと胸が大きくなったみたい、って。食事中にそう言っただけなのに、ちなみに嬉しくて少し声のトーンを上げただけなのに、なにを勘違いしたのかフォークを取り落としたエルサはそれはそれは絶望したような表情をあたしに向けてきた。
言葉が出ないと言った様子でしばらくぱくぱくと口を動かしていたかと思えば急に詰め寄ってきて、
「まさかアナ、こここ恋人ができたの?」
意味がわからない。
そのまま、出来てない嘘は言わないでの押し問答、遂には確認するから胸を触らせてちょうだいなんて言われて、本能的に危機感を覚えたあたしはこうして自室まで逃げてきたというわけだ。
「胸が大きくなったってだけでどうしてそんな結論になるのよ!」
「だってほら、揉まれると大きくなるって昔から言うじゃない。私だってまだ触ったことさえないのに…ひどいわかなしい…!」
だからどうしてそう悔しそうに言うのよ。大体大きくなったのだって単に成長期だからってだけなのに。誰にも触らせたことなんてないのに。だってあたしは、
「うう…こうなったらクリストフを凍らせるしか…」
「クリストフとばっちりすぎでしょ」
「だって、彼しか浮かばないんですもの」
哀れクリストフ。彼が永遠に固まってしまわないためにも、あたしはどうやら伝えなくちゃならないみたい。この流れだと少し恥ずかしいけど。
ノブを手離せば、まだ引っ張っていたエルサがそのまま後ろに倒れていく。よろめくエルサを抱き止め、ため息を一つ、ぱちりぱちりとまたたく姉の手を取った。
「ね、エルサ。あたしが触ってほしいと思ってる人は、いまも昔も変わってないのよ」
「…それって、」
「言わなくてもわかってるって、思ってたんだけどな」
最後まで真正面から言うつもりだったのに、やっぱり気恥ずかしくなって視線を逸らす。それでも手首を握ったまま、あたしの胸元へ誘い込んで。
「あたしはね、エルサに触ってほしいの。姉さんだけに、触れてほしいの」
間を置かずに抱きついてきた姉さんに一晩中触られたのは言うまでもない。どこをとは言わないけど。
(あら、アナ、大きくなったって言っていたけれど…)
(ま、まだ、発展途上なの!)
アナちゃんのおむねは発展途上なんです。
2015.2.21