小さなうそをつきました。

 神さま、どうかお赦しを。あたしは姉さんにうそをつきました。 「今日は一緒に寝ましょう!」 「今日は、じゃなくて、今日も、でしょう」  ああでも、言い訳くらいはさせてください。  うそ、と言っても、大きなものではないんです。たとえば昔から大嫌いな食べ物をもうとっくの昔に食べられるようになったわよと胸を張ったりだとか。たとえば少しも落ち着きがないくせに姉さんの前でだけは大人びて見せたりだとか。たとえば姉さんがこわい夢を見ないように一緒に寝ましょうだとか、そんな些細なものです。  すべては、長い十三年間の末に出逢えた姉さんの傍にもっといたいから。ようやく叶えられたあたしの願いがもっともっと続きますようにと、ただそれだけのために。 「ほらほら、いいから早く毛布に入ってよ。寒いから」 「私が入るともっと寒くなるかもしれないわよ」 「そんなことあるわけないでしょ。自分ではわからないかもしれないけど、姉さん、結構あったかいの」  ごめんなさい、あたしは今日も、うそをつきます。  姉さんが潜り込んできたタイミングに合わせて左を向くけど、本当はあたし、いつも右を下にして眠るんです。だけど姉さんが左を、太陽が昇る方角を背にして眠ることを知っているから、だからあたしの向きはいつも左。  どうして、って、向き合って眠りたいからに決まってるじゃないですか。世界を閉ざす夜の中も、光に包まれる眠い朝も、いつだって視界に映すのは姉さんだけでありたいから。  だからあたしは、寝心地の悪さを押し隠して姉さんの胸元に飛び込むんです。 「うん、やっぱりふかふか」 「人の胸を枕にして寝ないの」 「いいじゃないの。減るものでもないし」 「減ったらどうするの」 「増やして差し上げますわ、お姉さま」 「まったく…仕方のない子ね」  でもきっと、あたしのうそは完璧ではないんです。だって姉さんはすべてわかってると思うから。  あたしの嫌いな食べ物をそっとよけて取り分けてくれるし、お利口にも机に向かってるあたしよりも庭で駆け回ってるあたしの方がいきいきしてると言ってるし、あたしがいまだにひとりで寝るのを怖がってることを知ってるから。寝相の悪いあたしが知らず右を下にしていても、目覚めた時にはちゃんと目の前にいてくれるから。  いまだってこうして、頭を撫でてくれるから。 「ねえ、」 「どうしたの、アナ」  だからどうか、あたしのうそを赦してください。姉さんになに一つ敵わないうそつきなあたしを赦してください。  そうして赦してくださるついでに、 「すきよ、姉さん」  言葉の裏に隠したあいしてるにも、目をつむっていてください。 (あたしの願いはただ、姉さんと一緒にいたいだけだから)
 アナちゃんかわいいかわいいキャンペーン第五弾。  2015.3.4