永遠の愛を誓いましょう。

 口づけを押し留められたのは初めてだった。 「どうしたの、エルサ、なにか、」 「アナ」  有無を言わせない強い口調に自然、続くはずだった言葉を呑み込む。  伏せていた細やかなまつげを持ち上げたエルサは、見慣れた氷色の眸をまっすぐに、迷いなく向けてきた。口を閉ざしたあたしがはっきりと映るほど澄んでいるはずなのに、その内が読めない。なにを考えているのか、なにを言おうとしているのか、いつもなら手に取るようにわかるのに、そのはずなのに。  逸らすことさえ許されていないような気がして、近付いた距離はそのままに行き場を失くした手を下ろす。 「…あなたに、立てなければならない誓いがあるの」  静かに、厳かに。告げられたのはやっぱり先の見えない言葉。  誓い、だなんて。下ろしたばかりのあたしの両手をやさしく取って自身の額に触れ合わせる様子は懺悔を始める罪人のようにしか思えない。一体なにを、なんて返答はどこかへ転がって、ただエルサのするがまま、身を委ねるというよりは身体が動いてくれないだけで。 「いまも、これからも。私という存在が消えてしまうその瞬間まで、あなたを愛するという誓いを」 「…なんだ、それならあたしも、」 「──姉として、家族として」  安堵する間もなく落とされた続きに、心臓にぐさりとなにかが刺さる音がした気がした。目の前で氷色を隠すその人に与えられた、懐かしい痛みが。  あたしたちが離れ離れになる時まで愛することを誓うと、たしかにエルサはそう言った、けど。あたしの姉として、あたしの唯一の家族として、ということは、つまり、 「…ねえエルサ、」 「私は、」  ようやく戻ってきた声を遮られる、懺悔は、終わらないまま。今度こそ見えた先にだけど信じられなくて首を振る。震えているのはあたしの身体か、それとも掴んできているエルサの手か、それさえも判断できなくて。  罪人は真実をこぼす、残酷にも。 「あなたの、姉なのよ、アナ」 「─…そんな、」  知っていた、そんなこと、生まれてからずっと。知っていてあたしは姉を、エルサのことを好きになったのに。こんなにも愛してしまったのに。その姉自身が線を引こうとする、これ以上進んではいけないと、姉と妹以上の関係になってはいけないのだと。  帰ってきていたはずの音はまた成りを潜めてしまって、それ以上を口にすることができない。そんなあたしに、ようやく顔を上げた姉さんは眉を寄せた、なにかをこらえるみたいに。 「私の、私たちの想いは、赦されてはいけないのよ、アナ」  赦されてはいけない想いならどうして抱いてしまったのか、どうして溢れてしまったのか、こんなにも、氷で射抜かれたその時よりも心が痛いのか。  氷色は揺れない、呆然と目を見開くあたしをとかすこともないまま。 「…あたし、は、」 「アナ、」  名前を、一つ。響きが変わったそれに耳を塞ぎたいのに、あたしの想いを映してくれなくなった眸なんて見たくないのに、少しも動くことができない。  息を、一つ。 「愛しているわ、これからも」  あたしの姉さんは無情にも、永遠に変わることのない誓いを立ててしまった。 (どうしてあたしたちは姉妹なの、ねえ、一体どうして)
 そのかたちがどうであれ、真実であることに変わりはないのだから。  2015.3.5