だってどうしようもなくいとおしいから。

「え、える、さ…っ、」  音がなかなかかたちを成してくれない。名前を紡ごうにも不規則な呼吸が紛れこんでこようとするものだから、当の本人に伝わっているのかどうかさえ怪しかった。  触れようとして伸ばした手が力をなくして宙を切ったけど、それでも手首を取って、指を絡めてくれた、たったそれだけでまた、体温が上がっていくのがわかる。とけてしまいそうなほどの熱を持っているのはあたしなのか、それとも目の前で汗の玉を落としていくエルサなのか。両方であればうれしいなんて、ぼんやりと遠くなってきた頭がそんなことを考える。  普段の凛とした余裕はどこへやら、アナ、アナ、と。うわ言のように呟くエルサの氷色の眸はただただあたししか映していない。頬を染めてぼう、と氷色を見つめているあたしはなんだかとても間抜けに見えて。 「あなぁ…っ」  一際声が高くなる、それに合わせて指の質量が増したような気がした。ああ、違う、きっとあたしがしめつけちゃってるんだ。気付いたのはエルサの眉がうれしそうに下がったから。  ゆるり、止まっていたはずの動きがまた再開して、あたしの身体は律儀にも反応を示す。もう一体何時間、この状態が続いてるんだろう。しびれてきた身体はそれでも指を求めるし、ぐちゅぐちゅにとけた声はそれでも姉の名前を呼ぼうとするし。だからこそエルサはもうやめましょうなんて口にしないわけで。 「ね、エル、サ、…もう、」  寄せては返してくる波の間に言葉を重ねてみても、ねだっていると勘違いされたのかすぐに動きが加速して、一気に間隔が短くなった。ちかちかと視界がまたたく。もう寝ようよ、そう言うつもりではいたんだけど、この瞬間をまったく望んでいなかったと言えばうそになる。  あっあっあっ、と。声は意味を持たなくなって、代わりにぎゅうと珍しく体温をはらんだエルサの身体にしがみつく。離れてしまわないように、終わりが来るそのときまで同じであるように、ありったけの力をこめて。耳元で吐息がこぼれる、それとともにまた、きゅう、と。 「やめられるわけ、ないでしょう」  語尾を上げて、そ、と。あたしが続けようとしていた言葉を知っていた姉はふと、微笑んで。だって、だなんて、まるで子供みたいに。 「だってあなたのこと、あいしているんだから」  向けられた想いを受け止めるのに精一杯で、それ以上なにも考えることができなかった。ただただ、あふれてくる気持ちに流されることしか、あたしにはできなかった。それでもどうかこの想いが伝わりますようにと、抱きしめた腕が力をなくしてしまわないように。 (あたしもね、あいしてるの、姉さんのこと)
 アナ雪日本デビューおめでとうございます。  2015.3.14