やっと見つけた、

 こんな朝早くに目覚めるのも珍しい。  見ればまだカーテンの隙間から太陽だって覗いていないし、なにより隣ですやすやと気持ちよさそうにしている姉の眸だって閉ざされたままだ。寝顔を見つめられる機会なんてそうそうないから─その逆はよくあるんだけど─ごろりと寝返りを打ってここぞとばかりに凝視する。  昨日はしゃぎすぎたのか、それとも病み上がりだからか、あたしより三つも年上の姉さんは小さな子供みたいな表情で夢の世界を泳いでいるようだった。  起こしてしまわないようそ、と。額に触れた手に、いつものひんやりとした感触が応えた。あれだけ高かった熱ももう下がったみたいだ、これもあたしの献身的な看病のおかげね。  ひとり胸を張って、ひとりで笑ったはずなのに、それにきゃっきゃと高い音が混ざる。  音を辿って視線を巡らせてみれば、エルサが生み出した小さな雪だるまたちがベッドの縁からあたしたちふたりを見つめていた。世話を任せたはずのオラフの下から抜け出してきたのか残っていたのか、わからないけどとりあえず、しー、と口元に人差し指を立てて見せる。 「エルサが起きちゃう」  果たして人間の言葉が通じるのかどうか。けれど表情の変わらない彼らはそれまでの笑い声をぴたりと止めて、次々と床へ降り立つと扉の隙間から走り去っていった。  ただ一匹だけ、こちらに近付いてきた雪だるまが頭を差し出すように傾げてくる、その首には紐のようなものがかけられているみたいだった。  薄暗がりの中、見覚えのあるそれに目を凝らしてみれば、赤色の糸が雪だるまの動きに合わせてふわふわと舞っている。姉さんが辿ってちょうだいと至るところに括り付けていたそれは全部回収したと思っていたんだけど。  ありがとうとお礼を伝えて受け取れば、役目は終わったとばかり仲間の後を追いかけていってしまった。  あたしの好きなもの、欲しかったものばかりがこの糸に結えられていて。だけど一番傍にあってほしいものはついに見当たらなかった。  くるり、もう一度向き合って、肌に心地いい指を取る。折れてしまうんじゃないかと心配になってしまうほど細い小指に糸を結えつけて、反対側をあたしのそれに。  繋がった赤に自然、口元が綻んでいく。 「──最高のバースデープレゼントだね」  だって、ずっとずっと求めていた人が、目の前にいてくれるんですもの。  小指に口づけを一つ、空が起きてくるまではと、視界を閉ざした。 (あたしの運命の人、なんて、少し恥ずかしいけど)
 それでもいつだって傍にいてくれて、  2015.6.4