みにくい独占欲からは目を背けた、

 こういう時に思い出すのはやはり父の教えばかり。みだりに感情を晒してはならない、常に平静たれ、と。忠実に守ってきたはずだった、いつだってそれは胸の内にあるはずだった。  けれどこと妹に関しては、教えも言葉もどこかへ消え去ってただ、感情の赴くままとなってしまう。治さなければならないのに、律しなければいけないのに、ともすれば湧き上がる激情が私を支配する。 「エル、」 「黙って」  名前を紡ごうとしたそのくちびるさえも有無を言わさず奪い去る、呼吸ごと絡め取って。頑なに閉じられたままの歯をこじ開けて侵入すれば、壁に縫い止めた肩がびくりと震えた。それでも抵抗を強めようとしないのをいいことに舌をすくい上げて動きを強要する、息つく暇も与えず。  とん、と。控えめな一発。そのうちもう一つ、二つと重なってきたのでやんわりくちびるを解放すれば、距離を置くように叩いていた胸に手を当てたままむせてしまった。  この瞬間に罪悪感が浮かんでいたのも昔のこと、いまはただ、もっと染まってしまえばいいと。息なんて捨てて、私のことしか考えないようにしてしまいたいと。浅ましい感情はどこまでも深く、醜く。  手首を捕らえて壁に押し付ければ、空いた胸元が露わになる。パーティードレスで着飾った彼女はどこまでも美しかったけれど、これがどこの誰とも知らない者の目にも晒されているのかと思うと虫唾が走る、私だけのものなのに。  浮き出た鎖骨の上に歯を立てて、やんわりと噛み締める。洩れる声に構わず口づけとも呼べない猟奇的なそれを落とせば、傍目にもそうと分かるほどの真っ赤な跡が咲いた。私のものという証、私だけにしか付けることを許されない所有印を。 「これでもうパーティーには出席できないわね」  荒い息をこぼす彼女に私はただ笑った、あまりにも滑稽だったから、この程度で嫉妬に突き動かされる自分自身が醜さそのものでしかなかったから。 (だってそれは私自身なんですもの)
 なんてみにくい、わたし。  2015.7.24