あなたがいなければ私は私でないというのに。
『親愛なる姉さんへ』
堅苦しいその書き出しに、堪え切れなかった笑みが思わず口の端に浮かぶも、当の本人は気付いていない。それもそのはずで、自分の腕を枕にうつ伏せている妹は私が毛布をかけても規則正しく聞こえる寝息を途絶えさせることがなかったのだから。小さいころとちっとも変わらない寝顔に、頬はゆるまっていくばかり。
そうしてふと目に留まったのが、可哀想にも彼女に敷かれた羊皮紙たちだった。
喋る時はとことん饒舌なアナだけれど、こと手紙になると途端に口下手になってしまう、これは昔からそうだった。面と向かえば身振り手振りも交えてなんとか自分の気持ちを伝えようと様々な言葉を駆使するのに、紙にはその半分も記されない。長時間筆を持っていられないのだと彼女は苦笑するけれど、悩んで迷って、自分の心を探しているからだということを、私は知っている。
どうしても気になってしまって、そ、と。紙を抜き取れば、妹の心が露わになる。
『あたしは、』
いつもその瞬間、私の心さえも曝け出されている気分になる。
『姉さんの役には立たないのかもしれない』
いつだってそうだ、この子は。自分の価値を見出そうとしない、なかったことにして自ら埋もれて、そうして、エルサはなんでも一人でできるよね、なんて。心だけでなく私からも距離を置こうとしてしまう。近くにいてほしいのだと、隣で笑っていてほしいのだと、私がどれだけ願っているかも知らずに。
『姉さんの代わりにもなれないのかもしれない』
自分がどれだけたくさんの人を、私を、笑顔にしているかもわからずに。知恵を、勇気を、しあわせを与えているかも知ろうとせずに。
自分のことに関してはわからず屋な妹は綴る、想いを、心を、
『それでも、』
そ、と。抱きしめれば、冷えた身体に彼女のあたたかな体温が流れてくるようだった。いつ、どんな時だって、私はこうしてあたためてもらってきた、自身でさえとかせない氷をとかしてもらってきたのだから。
耳元に口づけとともに落とすのは私のまっさらな心。
「あなたがいないとだめなのよ、私は」
ひとしきり腕に抱いて、ふと身体を離せば、先ほどとの違いにまたたきを一つ、口元がまた綻んでいく。
「ベッドで寝ないと風邪引くわよ。それとも私と一緒に寝る?」
「………いい」
耳たぶを真っ赤に染めた妹は、視線から逃れるように毛布を頭まで被ってしまった。
(そばにいていいですか)
アナちゃんかわいいかわいいキャンペーン第七弾くらい。
2015.9.1