いつだって傍にいたいと思ってるわよ、あたしだって。

 ぬくもりに引き上げられた。 「─…えるさ」  紡いだ名前は思いのほかたどたどしく落ちていく。子供みたいなそれにけれど当の本人はすやすやと、さっきまでのあたしのようにまぶたを閉じてしまっていた。またたきを一つ、頭を覚ましても、どうして姉さんと一緒に眠っていたのか思い出せない。それもそうだ、あたしはたしかにひとりでベッドに潜りこんだはずなんだから。  片手を突っ張って身体を起こす、その途中で、ぐいと引き寄せられる。気付けばゼロ距離に近付いていた姉の眸はいまだに見えないままで。 「さみしかったの」  語尾を上げているのに、あたしに尋ねているようにも、自分の心を吐き出しているようにも聞こえた。  さみしかったなんてうそばっかり、あたしの方がもっともっとずっと、心を締め付けられていたのに。見知らぬ誰かから次々と誘いを受ける姉を、手を取るその姿を見つめることしかできないあたしの気持ちなんてわからないくせに。  わがままな言い分だってことくらい知っている、妹が女王をエスコートできるはずないから、ダンスの相手だって務まらないのだから。それでも、あたし以外の人に笑顔を向けている光景に慣れるはずもない。  ぽんぽん、と。背中をやさしく叩かれる、子供をあやすみたいに。 「なんで傍にいてくれなかったの」 「エルサの方から離れていったんじゃない」 「なら近付いてきてよ」 「わがまま」 「お互いさまね」  そのまま抱き止められてしまえば、きっとゆるく笑んだ表情を睨むなんてこともできなくて。大人しく抱きしめられるのも癪だから、頬をふくらませて顔を隠した。  髪を撫でつける手のひらがあたたかい。どこかへ引っ込んでいった眠気をまた呼び戻すそれに、眸がまどろんでしまいそうだ。  寂しかったことも、胸が痛んだことも、もうどうでもよくなる。いまはただ、このまどろみに、ぬくもりに沈んでいきたかった。 「もう離れないからね、アナ」 「…うそばっかり」 「いまは、よ」  今夜ばかりはともにいてくれるという姉の言葉に安心しきったまぶたを閉じて、息を吸う。広がった姉さんのにおいに、意識を落とした。 (それでももう少し傍にいたいと願うのに)
 さみしんぼアナちゃん。  2015.10.25